綻びかけた意識を引き締め直し、小細工はせずに正面から切り込んだ。

「昨日の爆破事件は知っているな。現場はお前らの縄張りだ」
「それなりには」
「一昨日の深夜にも一件、爆破騒ぎが起こっている。恐らく犯人は同一犯だ。心当たりは?」
「恨みを買うのも仕事の内だ。挙げていけばキリがない」
「だが、動いているはず。自分のシマを荒らしたヤツを放置すればどうなるか、分からないわけじゃないだろう」

紡はにっこりと笑顔を作った。

中性的な美貌に乗せられた完璧な表情に、恭夜はくつりと喉の奥で嗤う。

徐にその長い足を組み換え、冷やかな双眸に鋭さを宿らせた。

「優秀な司令官殿ならお分かりのはずだ。ギブアンドテイクは、世の基本原理だと」
「渡せるだけの有力なネタはない」

嘘ではなかった。

危険を冒してまで【残響】と接触を持ったのは、膠着状態に陥っていた捜査状況を打破するためだ。

今の警察軍は、今回の事件がヴィレン間の抗争なのか、ストリート・キッズを狙った愉快犯の犯行なのか、そのどちらでもないのかさえ確証を持てずにいる。

捜査が行き詰っていることなど、面会を要求された時点で気付いているだろうに、相手は尚も続けた。

「それなら、なぜ司令官殿はここに来た。カードを持たないでゲームに参加するような輩か? お前が?」
「俺のことなんて、ろくに知りもしないだろう」
「知る機会を設けようとしたら、断られてしまったからな」

最初の軽口を蒸し返されて、紡はポーカーフェイスを崩した。

頬を引きつらせて苦く笑う。

「……俺のこの顔、よっぽど気に入ってくれたみたいだな」
「屈辱で歪ませてやりたくなるくらいには気に入った」

漆黒の軍服に包まれた肢体を視線で舐められ、ぞわりと背筋に悪寒が走る。

素肌を探られたような感覚に、全身の筋肉が固くなった、

「ヴィレンの悪銭では無理と言ったが、情報ならばどうだ? “知り合い”には親切にしたい」

どうやら愚弄するだけのセリフではなかったらしい。

端正な面に刻まれた嗜虐的な笑みに、男の本気を思い知る。

紡はこれみよがしに嘆息した。

「ヴィレンと“知り合い”になる気はない」
「男と、ではないんだな」
「従順で大人しく、身も心もキレイな一般人なら考える余地はある」
「司令官殿はつまらない男がお好みか?」
「犯罪者でサディストな男よりずっとマシだ」

危険な取引を一貫して拒絶すると、恭夜は肩を揺らして笑い声を立てた。

理由さえ知らなければハッとするほど魅力的な表情だ。

紡は歪んだ頬をどうにか戻しつつ、冷静に思考した。

体を差し出すつもりがない以上、恭夜から一方的に情報を引き出すのは難しい。

出し惜しみをしていては、何も手に入れることが出来ないだろう。

真っ向勝負をせず、絡め手で行けばよかったかと考えるが、結果が変わるとは思えなかった。

逡巡は僅か。

黙って成り行きを見ていた水無月をチラリと窺ってから、対面に向き直る。

「犯人は四十代半ば、中肉中背で犯行時にはコートと帽子を着用していた。特徴は、刃物でついた頬の大きな傷痕だ」




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