階段は長くはなかった。

水無月は再び立ち止まると、カンテラを持ち上げて正面に現れた木製扉を照らし出す。

向けられた視線に首肯を返せば、彼は意を決したようにノブを捻って扉を押し開けた。

そこはぼんやりとした明るさに包まれていた。

僅かなランプが灯されているだけで、地下通路を歩いて来た紡たちは、視界を奪われることなく室内を見回した。

さほど広くもない部屋は応接室のようだ。

重厚感のある木材で出来たテーブルと布張りのソファが置かれ、壁には大輪の花を描いた絵画が掛けられている。

床に敷き詰められた深紅の絨毯は上等で、階段を上りきれば靴悪は途切れた。

紡の視線はこちらを見つめる二人の人物の上で停止した。

一人はアッシュグレーの髪の男だ。

ダークスーツを身に着けており、一目で端正と分かる容貌は二十代後半に見える。

ソファに深く腰を落ち着け悠然と足を組む姿は、年齢にそぐわぬ老成した余裕を感じさせた。

その背後に立つもう一人は、派手な金髪頭の下で凝然と目を見開いている。

動きやすそうな半袖のシャツとズボン、ワークブツーツといった有り触れた装いは、中流層の若者にしか見えない。

対照的な二人の人間を訝しげに観察していると、突然、金髪の男が声を上げた。

「嘘だろっ! 超美人じゃん!」
「は?」

何を言われたのか理解が出来ず、紡の唇から短い疑問符が飛び出す。

「ほら、言った通りだろう。俺の勝ちだな」
「ぜってぇデマだと思ったのに……ただの噂じゃねぇのかよ!」

スーツの男の得意げなセリフに、金髪の男は悔しげにソファの背もたれを叩く。

そうしてすぐにまた、紡をしげしげと眺めては頭をかき回した。

「あぁ、くそっ!」
「騒ぐな、ライ。客人の前で失礼だろう」

背後を軽く窘めると、スーツの男は流れるような所作で立ち上がった。

長い足をゆっくりと動かし、話について行けずにいる紡へと音もなく近づく。

「レトニアの新司令官殿は比類なき美貌の持ち主、という噂を聞いたことはあるかな? 噂の信憑性などたかが知れているが、客人を待つ間の退屈しのぎに賭けていたんだ」

艶やかな低音で語られる無礼な内容に、表情を険しくさせたのは水無月だ。

警戒心を露わにして、男の行く手を遮るように進み出る。

だが、スーツの男は突き刺さる眼光を一瞥しただけで、長身の水無月から放たれる威圧感を物ともせずに脇を抜けてしまった。

正面で立ち止まった男の無遠慮な視線を真っ向から受け止め、紡もまた遠慮なく相手を睨み上げた。




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