一通り話終えた沙希の瞳が、ぴたりと紡に据えられた。

冷静な色合いのそれを受け止めながら、大佐の頭脳は高速回転をしていた。

一件目の犯行で人的な被害は出ていないはず。

現場には死体はもちろん、血痕すら残っていなかった。

沙希の話が真実だとすれば、これは連続殺人事件だ。

そして犯人以外の何者かが、現場の偽装工作を行ったということになる。

これが警察をからかう悪質な嘘である可能性もゼロとは言えない。

だが、奪った荷物が爆破する手口は二件目の犯行と酷似しており、事件の詳細が公表されていないことを鑑みれば、彼の証言の信憑性は高かった。

「逃げて行った男に何か特徴はありましたか? 体型や服装でも構いません」
「夜でしたので自信はありませんが、中肉中背で帽子とコートを着ていたと思います。……あ」
「どうしました?」

たった今、思い出したとでもいうように声を上げると、沙希は少しだけ興奮した調子で。

「右の頬に傷がありました。刃物で出来た大きな傷です」

自分の耳の上から口角まで、指で線を引いた。

中肉中背、帽子にコートの男。

これまでの捜査で判明した犯人像は凡庸で特徴とは言えなかっただけに、沙希の証言は重要だった。

右頬を覆うくらい大きな刃物傷を持った男となれば、随分と被疑者を絞り込める。

紡はいくつか質問を続けると、にっこりと花の美貌を綻ばせた。

「お話は分かりました。ところで、沙希さんはレトニアにいらしてから、どれくらいになりますか?」

事件とは関係のない問いかけに、相手は一瞬だけ面食らったものの、すぐに優しげな微笑を取り戻した。

慣れない聴取で気疲れした自分を思いやってのことと察したのだろう。

「次の春で三年目になります。それまでは、別の街の高等学術院に通っていました」
「なるほど、そうでしたか。貴方のような方には、この街はさぞかしお辛いでしょう。何しろ犯罪が蔓延っている」
「えぇ、ですが大佐がいらしてから随分と治安がよくなりましたよ。図書館のみんなも話しています」
「まだまだこれからです。今回は貴重な情報を有難うございました」

当たり障りのない会話を締めながら席を立つと、紡は白手袋を外して握手を求めた。

沙希は差し出されたそれをチラリと確認して、自らも黒革の手袋を外してから紡の手を握った。

人好きのする笑顔が大佐の顔から失われるのは次の瞬間である。

「で、お前は何者だ?」




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