「まぁ、確証はないから、まずは愉快犯や通り魔の線で調べるか」
「でも、それにしちゃおかしくないですか?」
「何がだ」

異を唱えた水無月は、難しい顔つきで地図の一点を指差した。

赤ペンで印の付けられたそこは、一件目の爆破場所だ。

「ここを予行演習に選ぶなんて、いくら頭のネジがぶっ飛んでる愉快犯だとしても危険過ぎるんです」
「危険?ただの裏道だろう」

レトニアに危険のない裏道などあろうか。

表通りでさえ、完全に安全とは言えない犯罪都市なのだ。

怪訝そうに訊ねた大佐に、少佐は首を横へ振った。

「今日の路地はストリート・キッズの溜まり場として割かし名が通っていますが、昨夜の裏道も有名なんですよ。ガキどもとは比較にならないくらい、やばいヤツらの縄張りとしてね」
「ヴィレンですね」

言い当てた珠羅の声音は低かった。

ヴィレンとはグロリオーサ王国に蔓延る、犯罪組織の総称である。

あらゆる犯罪行為に手を染め、違法に利益を獲得するヴィレンは、闇社会のみならず政財界にまでその根を張っている。

巨大組織ともなれば、国家の中枢にも影響力を持つほどだ。

国内屈指の犯罪都市であるレトニアには、当然のように大小さまざまなヴィレンが拠点を据えており、組織犯罪対策課が昼夜問わず彼らの動向を注視していた。

他国ではマフィアとも呼ばれる犯罪組織の名に、紡の表情も硬くなる。

「この道はレトニアで最大勢力を持つヴィレンの縄張りに入ってる。バレれば即行で殺されるようなところで、爆破力チェックなんてします?」
「確かに、わざわざリスクを負う意味はないですね。何かしら目的があって爆破したと考えた方が自然です。ヴィレン同士の抗争って線は?」
「ありえるな。二か月前の抗争のせいで、ヴィレンたちはまだ荒れてる。どっかの組織が仕掛けた可能性はあるだろう」

闇社会の事情に通じている水無月は、珠羅の見解に同意を示す。

一件目が予行演習の爆破でないとするなら、犯行場所の選択には何がしかの意図があるはずだ。

宣戦布告や脅迫といったメッセージ的なものか、捜査の目を惹きつける囮か。

こちらの予想もつかない、まったく別の意図とも考えられる。

「ヴィレンの抗争だとして、二件目の路地はどこかの縄張りなのか?」
「ここは、確か【残響】の庭ですね」
「【残響】?聞かない名前だな。どんな組織だ」

いくら紡が優秀だと言っても、半年でレトニア内の事情をすべて把握するのは不可能だ。

主だったヴィレンは記憶しているが、知らない組織が大半である。

元は組織犯罪対策課に所属していた水無月とは比べるべくもない。

彼は垂れた目元を険しくさせて、気味が悪いと言わんばかりに説明する。

「いや〜な感じの組織ですよ。規模は小さいし派手に動きはしないので表に名前は出ませんが、結構な事件の裏に【残響】の影が見え隠れするっていう」
「影か……」
「そう、影なんです。決定的な証拠どころか姿すら見せないんですよ。何となく「あいつらだ」って感じる程度で」

常時、軍の厳しいマークを受けている大規模組織とは異なり、中規模以下のヴィレンが監視の目を潜るのは然程難しいことではない。

組織の数が多過ぎるために、組織犯罪対策課が見張るのは主だった組織のみなのだ。
だからと言って、いくつもの事件の裏に潜む組織を見過ごすなどあり得ない。

警戒対象に加えられぬギリギリのところで暗躍する【残響】は、底知れない不気味さを感じさせた。




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