第二章:捜査会議。
「事件の概要はすでに知ってるな。犯行は昨夜と今朝に一件ずつ。死傷者は今朝の爆破で四名出ている。俺はこの二つの爆破事件は、同一犯による犯行と考えている。お前らの意見は?」
支部に戻るや捜査会議を開いた。
特別捜査班の部屋には三人ばかりの所属士官が集合し、資料を広げた会議用のテーブルを囲んでいる。
出来上がったばかりの現場写真を見ていた珠羅は、紡の問いに細い目を手元から離した。
「これを見る限り、昨夜の犯行に使われた爆弾と同じものでしょうね。鞄を開けたら爆破するっていう仕掛けはされていますが、基本的な造りに差異はありません」
使用された爆発物は二件とも残骸になっていたが、方々に飛散した部品や爆破の痕跡に確信を得たのか軍曹は断言する。
普通ならば鑑識の結果を待つところだが、大佐は部下の見立てを否定することなく首肯した。
珠羅が確信を持っているのなら、疑う必要は皆無だ。
「ってことは、やっぱり同一犯の線で捜査するべきか。周辺への聞き込みは?」
「今朝の爆破に関して、ハルの証言と一致する男が目撃されていました。中肉中背、四十代半ば、コートに深く被った帽子。今朝ごろに犯行現場の方から東地区に向かう表通りを足早に歩いていたそうです」
「聞いたのは俺だけど、お前いつの間にそんなネタ仕入れたんだ」
「知り合いの女の子の店が近くにあったんで、ちょっと」
水無月はにやりと笑ってみせた。
いくら二日酔いだからと言って、現場に着くのが遅すぎると思った。
先に周辺への聞き込みをしていたらしい。
適当に見えて、相変わらずやるべきことはやっている。
「犯行の共通点は爆発物の使用と、現場が路地などの裏道であるということ。昨夜の爆破は予行演習だとすると、ストリート・キッズ狙い……あるいは怨恨か?」
思案深げに零すと、珠羅が首を傾げた。
「前者は分かりますけど、後者はなぜです?街の悪ガキ程度が、爆弾を使ってまで殺されるような恨みを買いますかね。愉快犯によるストリート・キッズ狩りの方が、可能性としては考えられませんか」
指摘はもっともだ。
生活のために犯罪を繰り返すストリート・キッズは、多少なりとも他人に恨まれる存在だ。
追剥や恐喝の被害者が、報復をすることは稀にある。
しかしながら、これほど手の込んだ殺害方法が用いられたとなると、怨恨の線は疑わしい。
爆弾を製造するだけでも手間なのに、予行演習をする念の入れようは、報復よりもずっと強く暗い意志を感じさせる。
紡は先ほど得た可能性を口にした。
「ハルと話をしたとき、少し引っ掛かることを言っていたんだ。あいつは、自分たちが狙われる理由に心当たりがあるようだった」
――恨みを買うようなことはしてない「つもり」だ
――「俺たち」の興味を惹くためだったのかも
ハルの言葉の端々に感じた違和感。
まるで最初から自分たちが標的にされるのを分かっていたような口ぶりだった。
それこそ、珠羅の言うような愉快犯によるストリート・キッズ狩りや、通り魔的犯行の可能性もあると言うのに。
つまり、彼らは何者かに命を狙われる自覚があったということではないだろうか。
下手に警戒されないために追及はしなかったが、紡はハルが何かを隠していると踏んでいた。
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