「二時間の説教でいいんだ。仲間のためなら、安いもんだろ」

軍人としてあるまじき発言ではあったが、紡は構うことなく本音を言った。

日銭を稼ぐことが精一杯のストリート・キッズに、今回の事件でかかった医療費を捻出するのは不可能だ。

費用を工面するために、更なる犯罪行為に手を出すことは十分に考えられる。

それだけは絶対に回避すべきだ。

決して反省させるために、説教を受けろと言っているのではない。

誰の庇護も得られない彼らに、生きる術を選択する余裕がないことくらい理解している。

だが、ハルたちの取った行動が犯罪である以上、医療費の申請だけを認めるわけにはいかなかった。

「病院の金、出してくれるのか……?」
「お前が説教受ければな」

内心、途方に暮れていたのだろう。

ハルは安心したように頬を緩める。

それに慌てたのは、傍らの下士官であった。

「お、お待ち下さい、大佐!まだこの事件が昨夜のものと関連していると決まったわけでは――」
「俺たち、連続爆破事件の現場に来たんだよな?」
「そうそう、その通り」

放り投げた疑問符を受け取ったのは、のんびりとした歩調でようやく現われた水無月だ。

二日酔いは治まったのか、甘く整った面には展開を面白がるような表情が浮かんでいる。

絶妙なタイミングで登場した部下に、大佐は形の良い唇で弧を描いた。

下士官と真っ向から目を合わせ、はっきりと宣言する。

「この事件、俺たち特別捜査班が与らせてもらう」

強い意志を灯した双眸に射抜かれ、下士官はしばし絶句し、やがて呆れ交じりの苦笑を滲ませた。

「……そのように、一課へ伝えます」
「悪いね、うちのボスってばわがままでさ」

水無月は慣れ慣れしく下士官の肩を抱いて嘯いた。

不意に軍服の袖を引かれて、紡は視線を向けた。

待っていたハルは、僅かな躊躇いの末、小さな声で。

「あの、ありがとう」

紡は思わず目を白黒させた。

この短時間で、何度も大人びていると思わされた少年の年相応な表情。

それがやけに嬉しくて、抗うハルを無視して頭をくしゃくしゃにかき回した。




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