「お前がいい噂を支持してくれていると助かるんだけどな」

大人げないことを言ってしまったか、と少しだけ後悔しながら紡はハルの頭に手を伸ばす。

白い手袋に包まれた指先が叩き落とされるのは、次のときだ。

思いの外大人びた瞳が、ペリドットグリーンの虹彩を射抜いた。

「確かに俺らからすれば、アンタの存在って微妙だよ。けど、今回に限ってはアンタがいてくれてよかったと思う。アンタが「犯罪者」に容赦しないって噂は、良くも悪くも有名だから」

視線の強さときっぱりとした言葉に、紡はぱちぱちと目を瞬かせた。

そうだ。

例えば昨日までのハルにとって、自分は厄介な邪魔者だとしても、今は違う。

仲間を傷つけた犯人を見つけ出す有用な手段なのである。

自分よりもよほど割り切れた少年に、密かに感嘆した。

「そうだな、俺は俺のシマを荒らすヤツを許さない。事件時の詳しい話、聞かせてもらえるか?」

紡は表情を改めると、力強い声音で問いを向けた。

もう何度も話しているのだろう。

ハルは一度首肯をすると、淀みなく事件の概要を語り始めた。

「朝の八時過ぎだったと思う。俺たちがいつもたむろしているこの路地に、一人の男が歩いて来たんだ。帽子を深く被っていたから顔はよく分からないけど、たぶん四十から五十代。体型は中肉中背?ってやつで、雰囲気はくたびれたおっさんって感じだった。そいつが抱えてた鞄に、ヒーロが……死んだ仲間が目をつけた」
「目をつけたって言うのは?」
「見るからに上等だったから、中にもいいもんが入ってるかと思ったんだよ」

ハルは不愉快そうに眉を顰めて応えた。

追剥を咎められることを警戒してか、しばらくこちらの顔色を窺っていたが、何も言わずにいると話を再開させた。

「ちょっとばかし脅して鞄を奪うつもりだったんだ。けど、男は俺らの雰囲気にヤバイって気付いたのか、すぐに鞄だけ置いて逃げてった。拍子抜けしたけど、手間が省けてよかったってそのときは思った」

上機嫌で開けた鞄が、爆発するまでは。

「ヒーロが鞄を開けて、他のやつも中を覗きこもうとしてた。俺はちょっと離れたところで、何が出て来るのか待ってたんだ」

ヒーロという少年は、己の身に起こったことを果たして理解できただろうか。

噴き上がった紅蓮と強烈な熱波に呑み込まれ、焦げた喉から断末魔の悲鳴は上がったのか。

それすら許されずに、命を落としたかもしれない。

脳裏に浮かぶ凄惨な情景はあくまで想像に過ぎず、現実には遠く及ばない。

仲間の無残な死にざまを目撃した少年は、奥歯を噛みしめて唇を引き結んだ。

その張り詰めた表情からは、犯人への憎悪や憤りよりも哀しみが強く見て取れる。

紡は限界のある同情心ではなく、冷静な瞳で軍人としての言葉を唇に乗せた。

「犯人に心当たりは?」
「そりゃ、まったくないとは言わない。けど、ここまでされるほど恨みを買うようなことはしてないつもりだ」
「他に気付いたことはあるか?男の様子とか、どっちに逃げて行ったかとか」

ハルは少し考え込んだ後、神妙な調子で言った。




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