特別捜査班。




国内屈指の都市であるレトニアは、四つの地区で構成されている。

貴族の別邸や高級住宅の建ち並ぶ北地区、警察軍の庁舎や役所が置かれた西地区、一般市民の生活基盤が据えられた東地区、そしてスラムを擁する南地区だ。

事件現場となったのは、南地区の中でも比較的治安が安定しているエリアの路地裏だった。

東地区に近くスラムからも離れているため、一般人も訪れるような界隈だ。

後ろ暗い店が目立つこともなく、路地の周辺は煉瓦造りの四階建てが静かに建ち並んでいる。

通りで軍用車を降りた紡は、制帽をかぶりながら野次馬の群がる方へと真っ直ぐに歩いて行った。

「はいはい、関係者以外は現場に入らないで下さい。下がって下がってー」

狭く薄暗い空間に充満する重苦しい空気を、一掃するようなあっさりとした調子に、人々は何事かと振り返るやすかさず道を空けた。

軍人の鏡のように一分の隙もなく黒衣を纏った紡は、口ぶりに反し他を退けるだけの気迫に満ちていた。

堂々たる足取りで人垣の間を進む大佐に気付いて、先着していた下士官が規制用ポールを慌てて退けた。

肩肘を張った敬礼に、紡は軽く首肯する。

現場の指揮を執っていた熟練士官が、すぐに紡の元へ駆けよって来た。

「お疲れ様です」
「ご苦労さん。状況は?」

簡潔な問いに相手は慣れた様子で応じた。

「十代の少年四名がこの路地裏に入って来た男の鞄を奪い、中を見ようと開いた瞬間に爆発したようです。鞄を開けた一名の死亡が先ほど確認され、他三名が重軽傷を負って二名が病院に搬送されました。四名全員、ストリート・キッズとみられます」

事件概要に耳を澄ませつつ現場を見回せば、石畳の地面から左右の建物の壁までが真っ黒に焦げている。

焼け焦げて煤けた範囲は広く、爆発の威力は想像に難くない。

奈落のように暗色が深い部分は恐らく被害者たちの血だろう。

そこかしこに飛散した血痕が、事件の生々しさを伝えて来た。

現場検証を続ける下士官たちに片手で挨拶をして、紡は傍らに向き直った。

「鞄の持ち主については何か分かったのか」
「この辺りとは言っても、やはり南地区の裏道ですから……。事件時に人通りはなく目撃証言などはまだ取れていません」

熟練士官の難しい表情に、内心だけで嘆息をつく。

日中とは言え、レトニアの路地裏を進んで歩く輩など高が知れている。

証言の取れる一般人なら尚更だ。

爆弾を入れていた鞄は見るも無残な有様だろうし、購入者の割り出しが出来たとして時間がかかるのは必至だ。

面倒な事件であることは、疑いようもなかった。

微かに眉根を寄せた大佐は、現場の傍らで数名の下士官と言葉を交わす少年に気が付いた。

「被害者か?」
「えぇ、少年四名の中で唯一軽傷で済んだ子です。念のため病院に行くよう言ったのですが頑なに動こうとしなかったので、詳しい話を聞いています」

紡は「なるほど」と一つ返してから、珠羅に正された襟元を再び寛げた。

制帽も外して士官の胸に押し付ける。

支部を統括するに相応しい「完璧な司令官」の姿は、それだけで消え失せた。

「あの、大佐?」
「俺も話をさせてもらうな」

戸惑う相手に構わず、眩い金髪に手櫛を入れながら歩き出した。




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