仁志 秋吉がそれに気付いたのは、本校舎の昇降口で綾瀬 滸と話をしていたときだ。

新入生代表として入学式の挨拶を行うため、職員室に打ち合わせに来ていた仁志は中等部からの想い人との再会に浮かれていた。

久しぶりに顔を合わせた綾瀬は以前よりもさらに美しくなっていながら、内面は仁志が恋をしたままで胸が高鳴った。

それとなく聞けば、まだ婚約者も碌鳴での恋人もいない、とのことで密かにガッツポーズをしたのは言うまでもない。

離れていた今までとは違い、これからは同じ校舎で時間を過ごせるのだと喜んでいた仁志は、昇降口の影で瞬いた光りに気がついた。

それがカメラのフラッシュであると判断するのに要した時間は僅か。

狙いが自分ではなく綾瀬だと分かったのは、同じ人間を好きになった者同士だからだろうか。

凄まじい形相で迫り来る仁志に慄いた盗撮犯は、カメラ片手に逃走を開始した。

そうして道とも呼べない桜並木の中で追いかけっこが始まったのだが、いくら俊足の仁志でも未だ高等部の造りには慣れていないため、地の利で巻かれてしまった。

不甲斐ない結果に項垂れる彼に追い討ちをかけたのは、現在、自分がどこにいるか分からないという事実。

新学期開始前のせいか周囲に人気もなく、さてどちらへ行ったものかと思案に暮れていた。

「情けねぇ……」

はらはらと舞い落ちる桜の花びらを眺めながら、ぽつりと零す。

好きな相手を害する輩を逃がし、迷子になる自分がやけに子供に思えて溜息が漏れた。

「仁志か?」
「あ?」

凛と響く低音に呼ばれ、仁志は声の方へと視線を向けた。

薄ピンクの幻想的な並木道を歩いて来たのは、綾瀬に続いて中等部からの知り合いである。

漆黒の髪と瞳が印象深い男は、あるべきものがあるべき場所に最良の形で配された秀麗な面をしていた。

最後に会ったときよりも伸びている身長に対抗心が刺激されるも、この男相手では張り合うだけ無駄とも分かっていた。

「穂積会長! お久しぶりです」
「……あぁ、本当に久しぶりだな」
「なんだよ、含みあるだろ」
「意味が分からない。再会早々突っかかるとは、これだから不良は困る」
「んだとこら!」

もはや挨拶の領域だ。

穂積との喧嘩にも聞こえるやり取りに、仁志はにやりと笑った。

「変わんないっすね」
「お前は進歩がないな」
「てめぇに言われる筋合いはねぇ!」

一向に喧嘩腰を崩さぬ穂積に、仁志の笑顔は三秒で崩壊だ。

表情を険しくさせた後輩に構わず、穂積はふと思いついたように言った。

「そう言えばお前、こんなところで何をしている。この辺りは俺の自由区域だぞ」
「自由区域って……あぁ、会長領か」

高等部の話題は他県にある中等部にまで流れて来る。

その一つに、会長領と呼ばれる高等部生徒会長の自由区域が含まれていた。




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