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生徒会の仕事は想像していた以上にハードだった。

碌鳴学院の運営を担っているだけあって、取り組むべき案件は次から次へとやって来る。

今はまだ現生徒会役員がサポートについてくれているが、一月からは自分たちだけでこなさねばならない。

少しでも早く仕事に慣れるため、光を始めとする次期生徒会役員は、毎日のように碌鳴館に通い詰めていた。

そんな彼らに訪れた久しぶりの休日。

光は普段通りの時間に起床すると、出かける支度をして部屋を出た。

携帯電話を開けば、仁志と約束した時間まであと少しだ。

手の中のものが着信を告げたのは、エレベーターを待っているときである。

ディスプレイに表示された名前に、飛び跳ねかけた心臓を宥めて通話ボタンを押す。
「もしもし」
『起きていたか』
「そりゃ、もう八時過ぎてますから」
『久しぶりの休みだろう。まだ寝ているかと思った』

鼓膜を撫でた穂積 真昼の声に、光は頬を緩めた。

機械越しでも、凛とした音色は美しい。

「何かありましたか?」
『副会長に決まってから、どこかに行く暇もなかっただろう。今日は一日、俺に付き合え』
「え……」

穂積の誘いに、光は思わず固まった。

傲慢な物言いが気に障ったわけではない。

念願叶って恋人同士となっても、多忙がために二人きりの時間が取れずにいたのだ。

彼の誘いは嬉しいに決まっている。

しかしながら、タイミングが悪かった。

『なんだ、都合が悪いのか』
「すみません、先約があって」
『……仁志か』
「……すみません」

謝罪を繰り返すことで肯定すると、しばしの沈黙が流れた。

忙しいのは光ばかりではない。

学院外の仕事もこなしている分、穂積の方がずっと時間に余裕のない日々を過ごしている。

そんな中で、こちらの休みに合わせてデートに誘ってくれたのだ。

光としても応えたいだけに、申し訳ない気持ちは強かった。

『そうか、無理を言って悪かったな』
「俺こそ、せっかく声をかけてもらったのに」
『次の機会にすればいい。急に言った俺のミスだ』

苦笑交じりの一言に、光はハッと思い至った。

穂積の性格を考えれば、事前に約束を取り付けるはず。

当日いきなり連絡をして来るのはおかしい。

ではなぜ、突然誘うような真似をしたのか。

導き出せる可能性は二つ。

今日の予定が中止になったのか、あるいは――

「あの、もしかして急いで仕事片づけたんですか?」
『……』
「会長」
『……昨日の内に片が付くか、分からなかったからな』

黙秘を許さず呼びかければ、相手は観念したように白状した。

予想が的中し、光の胸を罪悪感が満たして行く。

穂積は今日のために無理をしてくれたのだ。

事前に言わなかったのは、本当に予定を空けられるか判らないから。

不確定な状況で、光の休日を拘束してしまわぬようにと、配慮してのこと。

すべて、自分を想うがための行動と気付いて、光は堪らなくなった。




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