これには驚かされた。

挫けかけた熱情を再燃させて余りあるほどの威力だ。

恋心に免疫のない千影は、穂積が彼に語る睦言の半分ほども返してくれない。

恥ずかしがる千影を見るのも楽しいが、好意を示されるのとは比べるべくもない。

穂積は千影が好きなのだから。

千影の体を抱き締め直して、穂積はもう一度促した。

「なら言えるな。「俺」を呼べるだろう」
「あ……」

短い音が、桜色の唇から零れた。

ようやく気付いた青年は、戸惑いも露わに目を伏せる。

細かに震える長い睫毛、上気した頬、躊躇いがちに動く舌が僅かに覗く。

恋人の悩ましい反応に、穂積の背筋を情動が駆け上った。

まずい。

今、千影に正解を告げられたら、自制しきれるか分からない。

理性はある方だと自負しているが、誰に邪魔されるでもない空間で、媚態と言っても差し支えない姿を見せられては我慢できようか。

穂積の動揺を察した千影は、どう解釈したのか。

慌てた様子でそれを言った。

「真昼」
「っ!」
「真昼、真昼……貴方の、貴方だけの名前は真昼」

重ねた手をぎゅっと握り返して、何度も繰り返す。

千影は必死さを窺わせる瞳を穂積の黒曜石に突き合わせて続けた。

「ごめんなさい、躊躇してしまって。でも、真昼って呼ぶと変な気持ちになるんです」
「……変?」
「そわそわして、落ちつかなくなって、貴方から逃げ出したくなるのに傍にいたくて……好きって、こういう気持ちなのかって実感する」

素直な想いを吐露する想い人に、穂積は喉の奥で呻き声を殺した。

彼の腰を掴む手に、力が籠る。

辛うじて顔色は平静を装えたが、彼の理性もここまでだった。

「こんな年にもなって、気持ち悪いで――……!」

千影の自嘲は、穂積の唇に呑み込まれた。

一番深く交わる場所を探すように、角度を変えながら口づけを繰り返す。

相手が戸惑う内に強引に差し込んだのは、舌だけではなかった。

穂積は己の革靴を千影の爪先の間に捻じ込むと、ぐっと足を進めて開かせる。

条件反射で逃げる腰をすかさず引き寄せ、己の下肢と密着させれば、千影の全身が硬直するのが分かった。

熱を持ち始めたそこを押しつければ、押し返す固さと遭遇する。

唇を触れ合わせたまま、密やかな笑い声を漏らした。

「有意義な休日を実現するために、協力してもらえそうだな」
「傲慢、魔王っ……!」




- 13 -



[*←] | [→#]
[back][bkm]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -