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穂積は天井に向かってほぼ垂直に掲げた光の脚へ、音を立てて口付ける。
つま先から足裏へ、足裏からアキレス腱へ。
脹脛から膝裏へ舌を這わせると、光の唇が艶めかしい音色を零した。
「あし、もう止めて下さいっ」
「痛くないならいいだろう」
「痛くはないっ、ですけど……あの、っ、疲れたから!」
叫ぶような制止のセリフに、穂積はくっと喉を震わせた。
恋人の無意味な抵抗に、愛おしさと嗜虐心が同時に湧き起こる。
「それは悪かった。なら、これでいいな」
穂積はシーツの上に足を下ろすと、ハーフパンツの裾から手を差し込んだ。
腿の感触を楽しむように手指を這わせ、戯れに爪を立てる。
見下ろす少年の顔は赤く色づき、焦燥と羞恥が見て取れた。
「て、手当するんじゃないんですか!」
「当然だろう。お前の怪我を放っておくわけがない」
「だったら、なんでこんな――」
「俺は右足を怪我したとは聞いたが、具体的にどこを痛めたかは知らないからな。確認しているだけだ。ほら、足にしか触れていないだろう」
誇示するように膝頭へキスを落とせば、華奢な身体がぶるりと震えた。
白く長い脚に力が籠り、皮膚を押し上げるように腱が浮く。
強張りを解すように、足首から腿までじっくりと舌を這わせると、まるで自分が偏執的な嗜好の持ち主になった気になる。
いっそ足指の狭間まで舐めてみようか。
爪を噛んだくらいで「汚い」と抗議したのだ。
この少年はきっとさらにいい反応を見せてくれるに違いない。
悪戯心を刺激され実行に移しかけたとき、恋人の潤んだ瞳とぶつかった。
眼鏡の奥の双眸には、紛れもない劣情の炎が灯っている。
誘うような濡れた輝きは、穂積の中の余裕を跡形もなく消し去った。
あれだけ弄んでいた足から身を離し、気付けば艶めかしく色づいた頬に手を伸ばしていた。
光は待ち焦がれていたかのように擦り寄って、熱い吐息を穂積の掌に吹きかける。
中指と薬指で耳をくすぐりながら、親指を唇の谷間に引っかければ、相手は躊躇いもなく小さな舌でぺろりと爪先を舐めて来た。
慌てて退こうとした手を引き留められ、にやりと妖しい笑みを向けられる。
「俺が怪我をしたのは、足ですよ。会長、どこ触ってんの?」
穂積は眩暈を覚えた。
光としては「してやったり」といったところなのだろう。
怪我の確認と称して散々好き放題をされた腹いせに、ささやかな仕返しをしたつもりに違いない。
だが、現実は違う。
彼は墓穴を掘ったようなものだ。
自ら窮地に陥っている。
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