C
今でもその想いは変わらない。
愛しい少年を助けるのは自分でありたい。
自分だけでありたい。
彼にとって唯一絶対の救済でありたいと、傲慢な願望は衰えることなく育っている。
そう、育ち過ぎてしまったのだ。
光に何を負わせることなく、ただ与えるだけであったはずの手は、いつしか縋られる日を夢見ていた。
「もっとひどい怪我だとしても、お前はやはり隠すのだろう。折れた脚でも、一人で立とうとするんだ」
「そんなこと」
ない、とは言わなかった。
光も自覚しているのだ。
誰にも頼ることが出来ない自分を。
調査員だけであることから解放された彼は、もはや誰を頼ったところで存在意義を失うことはない。
揺らがぬ自己を確立した今、寄り辺を拒む理由がどこにある。
他人に救いを求めないのは、長年の習性なのか性格なのか。
頭では分かっていても、光はやはり自ら手を伸ばそうとはしないまま。
自分の力のみで、立とうとする。
正直な返答が好ましくも憎らしくて、穂積の口端が自嘲で歪んだ。
それを見られたくなくて、再び光の足へ顔を寄せる。
責めるように親指の爪を噛んでやると、ビクリっと脚が飛び跳ねた。
「やめて、下さい。汚いから」
「断る」
「なんでっ」
なんで?
答えは明白だ。
「八つ当たりに決まってる」
傲然と言い放つと同時に、穂積は椅子から腰を持ち上げた。
ベッドに乗り上げ、脚を抱えたまま光の上半身をシーツに押し付ける。
仰向けに倒れた少年は、呆気に取られた様子で目を瞬かせていた。
「八つ当たり、ですか」
「そうだ」
光はなにも悪くない。
心配も迷惑もかけるまいとした健気な心を、誰が否定できるというのだろう。
相手の負担を慮る生真面目で優しい性質は、彼の長所でこそあり間違っても短所にはならないのだ。
すべては穂積が悪い。
与えるだけでよかったはずが、いつしか求めてしまった。
光の手が伸ばされぬことに、不満を抱いてしまった。
だからこれは、八つ当たり。
身勝手な暴挙と理解していても、止められない。
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