アイスコーヒーで喉を潤した穂積は、そう言えばと思い出す。

茶請けのクッキーをもぐもぐと咀嚼する相手に目を投げる。

「アイツは仁志と組むのか?」
「ん?アイツ?」
「名前負けのゴミ虫だ」

首を傾げた綾瀬に答えてやる。

後半は意識的に強く言った。

鳩尾にくらったボディブローの味は、数週間経った今でもよっく覚えていた。

サバイバルゲームでは自分で仕出かしたミスをフォローするためにと、あのボサボサ頭を助けに走ったが、身体を張ってまで助けてやったことは今でも後悔している。

ずれた眼鏡からチラリと見えた気のする素顔が、やけに綺麗に思えたから『穏便』に『自由意志』で顔を見せろと言ったのに。

よくもあんな舐めた真似をしてくれたものだ。

おかげで自分がますます彼への興味を強めている事実を、穂積は認識しているのだろうか。

「あぁ、長谷川くん!そう言えばまだ提出されてなかったよ。仁志くんと組むことになるんだろうけど、でも……」
「どうかしたのか?」
「うん。なんか最近、仁志くん……」

綾瀬の言葉は、部屋に響いたノック音によって中断された。

控え目なこの叩き方に来訪者の予想がつく。

彼もまたこの部屋の主なのだから、ノックなどしなくてもいいのに、生徒会メンバー中最も気遣いの彼らしい。

だが、この日は違った。

いつもならば応答があるまで開けられぬ扉が、若干急いた気配で開かれる。

「穂積くんっ」
「どうした、歌音」
「歌音ちゃん?」

硬質な音色で、開口一番呼ばれた己の名前。

入って来た歌音と逸見の私服姿に、穂積の眉が訝しげに寄せられた。

基本的に休日と言えど登校時は制服着用が原則である。

故に、穂積も綾瀬も制服姿。

着替える時間すらも惜しむ事態が発生したと、気付くのに少しの間もなかった。

「今日は二人でお出かけしてたんじゃなかったの?」
「うん、そうなんだけど……」
「なんだ?」

どう説明すればいいのか迷うように、歌音の視線が床に落ちた。

穂積が少年の背後に控えた逸見にチラリと視線を向けると、彼が変わって口を開いた。

「生徒の覚せい剤所持者を見つけました」
「……っ」
「うそっ!?」




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