SIDE:歌音&逸見

碌鳴学院の山の麓にある街は、週末になると学院の生徒がチラホラと訪れる。

ショッピングモールを始め様々な店が密集しているので、一日遊ぶくらいにはちょうどいい。

街路も綺麗に整備されており、まるでどこかのテーマパークのようだ。

何故、都内でもない一地域が豊かなのかと言えば、答えは簡単。

自分の息子が暇を持て余すことがないようにと、碌鳴学院の生徒の保護者が街に多額の寄付をしていたり、所有している店の店舗を展開させているからである。

住人たちはこの田舎ながら栄えたエリアを『城下町』と称していた。

学院の外出日にあたる日曜。

いつもよりも一層の賑わいを見せる城下町に、人々の目を惹く二つの姿があった。

「逸見、そろそろお昼にしよう」
「そうだな。何かリクエストは?」

ふわふわとしたオレンジ色の髪を、ストライプ柄のリボン飾りがついたゴムで、頭のてっぺんに尻尾のごとく結んでいる少年が傍らの存在を仰ぎ見る。

半袖のロングパーカーをワンピースのように着て、下には七分丈のカーゴパンツ、足元はスリッポンとまるでカジュアルな少女のような装いだ。

応じた相手も、Tシャツにベスト、細身のネクタイとデニムで、フレームレスの眼鏡や品のいい腕時計をしていてもラフな印象を覚えるもの。

気負いないファッションを纏った二人組みは、その卓越した容姿から周囲の視線を集めていたが、慣れきっているのか少しも意識してはいなかった。

日々、生徒会の仕事に追われているせいで彼らにとっては久方ぶりの外出だ。

逸見の手には店のショップバッグが握られている。

「この前行ったお店は?」
「あぁ、そうするか。確かここからすぐだったな」

近くにあったはずのカフェを思い出した歌音の提案に、逸見も頷く。

落ち着いた雰囲気の店内はセンスもよく、何より学院の生徒が来ないのが最大の魅力だ。

一般人ならともかく、外出先でまであれらの目に晒されるのは御免である。

目的地の方へと足を向けた逸見は、しかしふと立ち止まった左隣の存在に気付いた。

「どうした、歌……」
「逸見」

穏やかな笑顔であった愛らしい天使の面は、声と同じく強張っている。

大きな瞳が見つめる先をすぐさま辿った男は、歌音が何を言いたいのかを瞬時に悟った。

通りをそれた夏の日差しも届かない薄暗い小道に、爽やかな制服が地面に倒れ伏しているではないか。

真っ白なワイシャツと紺のスラックスと言えば、この辺りでは碌鳴学院だけ。

その生徒を執拗に蹴りつける人影を、眼鏡の視界に捉えるや逸見は荷物を置いて駆け出した。

「そこで何をしているんだ」
「っ!?」

急に声をかけられるとは思わなかったのだろう。

うめき声を漏らす少年をいたぶっていた男は、ギクリと肩を震わせて勢いよくこちらを振り向いた。




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