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『その声はアキだな!なになに、すっげ久しぶりじゃん。どした?』
対照的なテンションに僅かに苦笑い。
電話の向こうにいるのは、学院外の友達。
自分を不良グループに呼んでくれた、『アキ』として交流を持っている人間だ。
切り出し方を考えた仁志は、無難な方法を選ぶ。
「いや、最近そっちどうかなって」
『あーこっち?もう散々?色々あったわけよ』
「なんだよ、つまんねぇことなら興味ねぇぞ」
『自分から聞いといてそれですか。けどマジにすごかったんだって!聞いたら笑うね、確実に』
「もったいぶんな、切るぞ」
わざとそっけなさを装えば、相手は簡単に乗ってきた。
誰かに話したくて堪らないのだろう。
逃すものかという意気込みを感じ、これは他の人間には言っていないと悟った仁志は、耳に当てた機械から流れた言葉に鋭い瞳を見開いた。
『ちょ、ちょいちょい待ってって!すごいんだよ、本気。チームな、解散したんだ』
「……は?」
思わず間抜けな一言。
友人は望んでいた反応を得られた満足感で、声に余裕を取り戻している。
『な?すごいだろ。五月の終わり頃かね、そんくらいにいきなりよ。びびったなぁ、アレは』
もう一ヶ月以上の時間が経過しているのに、どこか最近の出来事を語る調子。
それほど彼にとっても衝撃的だったに違いない。
正規のチームメンバーでもない仁志ですら、この驚きなのだから当然だ。
後藤がまとめるチームは、あの街では一、二を争う大規模なグループだったはず。
解散など考えもしなかった。
「なんかあったのか?」
問いかける音色は自然、強張っていた。
『それがさ、よくわかんないの。誰も詳しいこと教えてくんないし?何がどうなって……え?ちょい待って、いま電話中』
誰かに声をかけられたらしい。
これはそろそろ切られるな、と予感した仁志は手早く情報を貰うことにする。
「なぁ、いつも後藤の傍にいた奴いたろ?」
『あぁキザキっしょ。アイツさ何か引越したらしいんだよ、もう見てないな』
「……そか。あ、電話してて平気か?」
『んー、実はちょっと駄目。俺、おモテになるの』
「邪魔して悪かったな」
『怖い声は止めてくださーい』
きゃー、と気色の悪い声にポーズではなく本気で気分が萎える。
「切るか」
『待て待て、お待ちになって!最後に一つすごいの教えてやるからっ』
「話したいだけだろ」
それでも電源ボタンを押さないのは、彼からの得られる情報は今の自分にはきっと必要なものだから。
大人しく次ぎを待つ。
そして与えられた。
『後藤さんな、逮捕されたんだわ』
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