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SIDE:仁志
生徒会役員の寮部屋は、広々と快適な空間だった。
だが、ただよう空気は重苦しい。
醸し出す人間は部屋の主一人きりだが、ずしりと肩に圧し掛かる色は複雑な胸中を物語る。
黒とシルバーでコーディネイトされた部屋は、スタイリッシュではあるものの、今の仁志には少々息苦しい。
すっかり日の落ちた窓の外から、寮の街灯だろう。
アンティークなオレンジの光が微かに届く。
サバイバルゲームで抱いたものは、最早疑念の領域を超え確信へと姿を変えていた。
光とキザキは間違いなく同じ存在だ。
けれど、どうしてあそこまで違うのかが分からない。
髪の色も、雰囲気も、性格まで。
変装をしているのだろうか。
どれも偽ろうと思えば偽れるものとも言える。
けれど容姿が家柄に次いで重要視される碌鳴を、彼はもう知っているはず。
あの黒髪や眼鏡を取れば、今の過酷な状況が改善されることは間違いないのに、今なお続けているのは何故だ。
もしやキザキの方が偽りで、光が真実の姿なのか。
それとも別人。
いいや、脳裏に焼きついて離れないジャンプは、どうしたって彼らを分けて考えることをさせてくれない。
分からないことだらけだ。
光本人に聞いてみれば話は早いのだろう。
しかし、『以前どこかで会ったことはないか?』
そう問いかけた二回とも彼は否定を口にして、内一回は逃げている。
どうして隠すのか。
どうして、どうして、どうして。
いくら考えを廻らせたところで、導き出されるものは一つだけ。
『分からない』
これだけだ。
いい加減、嫌になる。
「……っくそ」
こんな心のまま、光と普通に接し続けるなんて出来ようか。
光はいったい、何なんだ。
悩み続けたところで心の蟠りは解消されるはずがない。
仁志は倒れこんでいた黒のソファから上半身を起こすと、ラグの上に放っておいた携帯電話に手を伸ばす。
パチンっと音を立てて開けば点灯する画面。
表示された数字はゼロが頭についているが、どうせ起きているだろうと構わずアドレス帳を呼び出すと、通話ボタンを押した。
『はいはい』
「よぉ、久しぶり」
数回のコール音の後、相手の声が聞こえてきた。
案の定起きている。
どころか、雑音が多く紛れてくるので、夜遊びの真っ最中だったのだろう。
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