それぞれの七月。




「七夕祭り?」

七月に入った。

しとやかな梅雨が明け、賑やかな太陽光が主役の季節。

山の天気は変わりやすいと言われるが、学院もまた夏の到来から逃れることなく、優美な校舎を強い日差しに晒し出していた。

外に出ればどっと噴出す汗も、空調管理のなされている校舎に入ってしまえば問題ない。

制服も完全に夏服に移行され、ブレザー混じりだった六月とは異なり、みな半そでのワイシャツとスラックス姿だ。

担任の須藤が黒板に書いた文字に、光は首を傾げた。

碌鳴での最初の行事を体験したばかりの光は、内容は散々ながら無事に乗り切ることが出来てほっとしたのも束の間、どうやらもう次のイベントが迫っているらしいと、机に突っ伏した。

「しかも、また分けわかんないし……」

高校生にもなって七夕なんぞ一体何をやるんだか。

ずっと幼い頃、木崎と一緒に短冊を作った記憶を思い出し、光はため息をついた。

ちなみに、短冊の紙は書類の裏。

笹ではなく電気スタンドに吊るした。

まさかここに来て同じようなことをするわけではあるまい。

説明を求めようと隣を見た光は、珍しくも居眠りをこいていない仁志に驚いた。

彼と授業を共にしてだいぶ経つが、授業時間に起きていた試しがないのだから当然だ。

「仁志、どうしたんだ?」
「……」
「仁志?」

もう一度、やや大きめの声で呼びかければ、仁志は我に返ったように目を何度か瞬かせ、ぎこちない笑顔でこちらを向いた。

「え、あ、なんだ?」
「……あのさ、七夕祭りって何やるのかなぁって思って」
「あぁ、そろそろだもんな」

正面を小さく指し示せば、白墨で書かれた文字に彼は納得したように頷いた。

「七月の行事がこれなんだけどな、彦星織姫の説話を使ったゲームだな」

随分と可愛らしい単語が飛び出したものである。

上下左右どこから見ても不良にしか見えない仁志が言うと、なかなか面白い。

口元をひくりと動かした光に気付いたのか、頭を叩かれた。

「笑ってんじゃねぇよっ!」
「って。仁志、カルシウム不足だよ」
「毎朝牛乳飲んでるわっ!!」
「噛んで?」
「ネタ古ぃなおいっ」

ぎょっと目を剥かれる。

牛乳を飲むときには噛むといい。

そんなに懐かしのネタだろうかと思うが、残念ながら現代の高校生で知っている人間は少ない。

仁志が分かっただけよしと思うべきだ。

「お前実はいくつだ?」
「仁志が17なら俺も同じはずだけど?」

からかうように言えば、相手は諦めたようだ。

話がズレた、と軌道修正する。

「彦星と織姫の説話は分かんだろ?幼稚園とかで聞くあれだ」
「あー、うん。天の川が出る一年に一度しか会えない話だよな」
「そう、それだ」

幼稚園どころか教育機関は碌鳴が初めての光は、曖昧に頷くに留める。

その物語を幼稚園で習うかどうかなど知らないが、木崎が昔話してくれたことを覚えていて助かった。




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