しばらくして、携帯電話にメッセージが届いた。短い文面をさらい、手早く机周りを整えて席を立つ。

「少し出ます」と断って、足早に碌鳴館を後にした。

向かう先は委員会棟の副会長方準備室だ。

通常、生徒会と補佐委員のやりとりは、電話やメールで行われる。出向く必要がある場合は、各方の筆頭が碌鳴館に赴く。生徒会副会長が筆頭からの呼び出しに応じ、委員会棟へ足を運ぶことなどあり得ない。

しかし、光が本格的に実務をこなすようになってから、今日のようなことは幾度か繰り返されていた。

委員会棟の最上階にある扉の一つをノックする。出迎えてくれたのは、光を呼び出した渡井ではなく、筆頭補佐の片岡だ。品のよい端正な面は強張っており「お疲れさまです」と挨拶をする声も硬い。

「どこにあった?」
「光ちゃん、こっち」

すぐに本題を切り出すと、続き部屋から顔を覗かせた渡井が手招きをした。

準備室に併設された会議室には、渡井のほかに二人の委員がいた。青ざめた顔で彼らが見つめる先には、細切れになった紙屑がある。長机の上に広げられたその正体に、光は柳眉を寄せた。

「誤ってシュレッダーにかけられていたようです。そこの二人が発見を」
「……そうか」

片岡の説明を聞きながら、小さな紙片を手に取った。裁断の済んだものを、よくぞ見つけたと感心する一方で、深刻な事態に不安を覚える。

「まぁ、外部に流出していなかったのが、不幸中の幸いかね。シュレッダーで助かったよ」

張り詰めた空気を変えるように、渡井が軽い調子で言う。意図を察した片岡が、見つけた委員二人に簡単な労いの言葉をかけているが、光に同じことをする余裕はなかった。

長机に散らばる紙片。それは昨日、紛失した書類だった。

重要度の高いものではないが、もちろん紛失を認める理由にはならない。同じことがここしばらく連続して発生しており、目下、光の頭痛の種だった。

他の委員が退室するのを待って、渡井が表情を一変させた。彼の真面目な顔に狼狽えていたのは、いつまでだったか。歓迎できない問題の連続で、今ではすっかり見慣れてしまっている。

「アキに報告は?」
「これから。けど、もう気付いていると思う。出てくるときいたから」

最初の書類紛失から、仁志には必ず報告をしている。光が離席した時点で、失せ物が見つかったことは察しているだろう。執務室を出る間際に寄越された鋭い視線は、友人ではなく「生徒会長」としてのものだった。

「長谷川副会長、申し訳ありません。全員に再度、書類の取り扱いについて注意を促します」
「ってもなぁ。再発防止したくても、なんでこうまでなくなるのか、本気でわかんないんだよね」

沈痛な面持ちで頭を下げる片岡に対して、渡井は首を傾げる。光も同感だった。

今までに起こった紛失は四回。いずれも重要書類ではなく、一両日中に見つかっているため大事にはなっていないが、光が何の対策も講じなかったわけではない。

副会長方への注意喚起をはじめ、一日の業務の終わりには、その日使用したすべての書類のチェックを指示している。それにも関わらず、今回の紛失だ。明らかにおかしい。

「……昼休みが終わりますね。長谷川副会長、我々はそろそろ」
「あぁ、そっか。二人ともありがとうな。この話はまた放課後にしよう」

片岡は遠慮がちに切り出すと、軽い一礼を置いて部屋を出て行った。




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