最悪な一日。




「うわっ!」
「っ!!」

着地地点で自分を抱きとめた腕に、光は目を白黒させた。

骨と骨がぶつかって痛い。

落下の勢いはどうしても殺せず、二つの影は地面に倒れこんだ。

「ぃっ……って、会長!?」

白いブレザーに頬を押し付けていた少年は、自分が守られるように彼の胸に抱き込まれている事態にあわあわと身を起こそうとする。

だが、腰に回った相手の腕には力が入ったままで、上手く行かない。

自分の身体を下敷きにして光を庇った穂積は、どこかを痛めたように眉を寄せていた。

「何やってんだよ! 怪我は?」
「……お前がここに居ろと言ったんだろう」
「な、違うっ。着地しても骨折くらいはするかと思って、保健室連れてってもらおうかと」
「骨折ですむかっ!」

ばっと伏せていた目を開いて怒鳴った穂積に、光は思わず言葉に詰まる。

何せ三階からだ。

打ち所が悪ければ永眠だったかもしれない。

自分の力量範囲の行動だとは思っていても、やってみなければどんな結果が待っているかは分からないのだから、軽率だったと認めざるを得なかった。

「それは、まぁ……。って言うか、会長は俺を潰したいんじゃなかったのか?俺としては有難いけど、言ってることとやっていることが矛盾……って聞いてます?」

あまりの反応のなさに、光は無理やり彼の上から退いた。

穂積の上に覆いかぶさっている体勢は、不可抗力と言えども違和感があったし、ちょうどよかった。

立ち上がりながら乱れた鬘の前髪を元のように直し、ズレかけていた眼鏡に気付いて急いでしっかりと目元をガードする。

だが、その手をガシリっと掴まれた。

勿論、穂積に。

「あの、なんですか?」
「……顔を見せろ」
「見せてますけど」
「そうじゃない。眼鏡を取って素顔を見せろ」
「はっ!?」

なんだ、いきなりなんだ。

ぐぐっと間近に迫った完璧な美貌に、光は同じ分だけ後退する。

身長差を利用して顔を俯かせれば、彼の長い指先が光の顎にかかった。




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