補佐委員会副会長方。




それは十二月に入ったばかりの昼休みだった。

渡井に案内されて踏み入った部屋には、十数名の生徒たちが待っていた。学年も体格もまちまちだったが、皆一様にきらきらと輝く期待の籠った瞳で光を見つめている。

「彼らがきみの補佐委員だよ、光ちゃん」
「俺の、補佐委員……って、副会長方か!?」

ぎょっと目を剥き傍らを見れば、相手は「気付いてなかったの?」と苦笑を零した。

渡井の言い分はもっともだ。

なにしろ、光が今いる部屋は碌鳴学院の広大な敷地の一角に建つ「委員会棟」と呼ばれる施設なのだ。このタイミングで副会長方筆頭を名乗る男に連れてこられたなら、用件は一つしかないだろう。

「……間に合ったんだな」
「任せてって言ったでしょ? なーんて、期限ぎりぎりになっちゃったけどね」
「だろうな。渡井がいなかったら無理だったよ、本当に――」

そう言って頭を下げようとした光を、渡井は慌てて押し留めた。その顔にはどこか得意げな色がある。

「なんだよ」
「光ちゃん、ちょっと誤解してるね。いい? 時間がかかったのは人が集まらなかったからじゃないよ」
「え?」
「その逆です。集まり過ぎてしまったんですよ、長谷川副会長」

光の問いに応えたのは、聞き慣れない声だ。

居並ぶ生徒たちの中から、背の高い一人が進み出る。

集団に埋没するような有り触れた髪と瞳の色だが、ふわりと優しげな笑みを浮かべる顔は端正だ。肌理の細かい肌と通った鼻梁が印象深い。

「二―E所属の片岡 巧と申します。初めまして」
「あ、長谷川 光です。はじめまして」

第三者の介入に面食らいながら、ぎこちない挨拶を返す。

彼――片岡はそんな光に笑みを深めると、横の渡井へ視線を移した。

「結成までの経緯、まだお伝えしてなかったのか」
「驚く顔が見たくてさ」

へらりと笑って誤魔化す渡井に嘆息して、片岡は光に向き直った。

「実は先だっての訓練以降、副会長方を希望する生徒が殺到したんです。長谷川副会長の場合、前身団体がなかったので選別に時間を要しました」

片岡の簡潔な説明に、光はようやく理解した。

あの非常事態訓練の日から、学内における自分の評価が跳ね上がったのは事実だ。大講堂で浴びた拍手と喝采を思えば、一時的な気分の高揚から委員を志願する者がいても不思議ではない。

歴代の役員のように親衛隊がいれば、それを補佐委員会に改名すればいいのだが、光の場合は一から組織する必要がある。興味本位の希望者から、副会長方で働くに足る人材を選出するのは骨だっただろう。

「片岡はあの一件より前に勧誘しててさ、メンバーを選ぶの手伝ってもらったんだよね。我ながらいい人選だと思うよ?」
「ここにいる副会長方総勢十五名は、ただの好奇心以上の想いを持って集まっていると保証します。長谷川副会長」

二人の言葉を裏付けるように、役員たちの瞳には光に対する期待と尊敬の念が宿っている。自信と誇りを感じさせる表情に、胸の奥が熱くなるのが分かった。




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