魔王生誕祭。




碌鳴館の食堂に灯りがともったのは、就任式の日以来だ。

あのときとは異なり、大仰なディナーテーブルに並ぶのは豪華な晩餐で、それを囲む面々も現新両生徒会に加え逸見 要がいる。

晴れやかな笑顔でフルートグラスを片手に立ちあがった綾瀬は、一同をぐるりと見回した後、今日の主役に視線を据えた。

「それでは、我らが穂積 真昼の誕生日を祝しまして、かんぱ――」
「綾瀬先輩! それだとちょっと違うんで「誕生日おめでとう」にしましょう! ね!?」
「あ、それもそうだね。では改めて……穂積、お誕生日おめでとう!」

慌てて割り込んだ仁志に訂正されて言い直す。いつもの様子に苦笑しながら、全員で祝福の言葉を復唱した。

十一月二十七日。穂積 真昼の誕生日を祝うべく、綾瀬主催の誕生日会が開かれた。

「穂積も十八歳かぁ……大きくなったね」
「お前は俺の親か」
「穂積みたいな子どもは絶対にイヤだけど、心境としては近いかな。こーんな頃から知ってるし」

そう言って、綾瀬は掌を床に向ける。

「図体も態度も大きくなっちゃって、可愛げがなくなったよねぇ」
「お前、祝う気ないだろう」
「まさか! 嫌いな相手のために誕生会を開くほど、ぼくだってヒマじゃないよ」
「……」

綾瀬らしい素直な返答に、穂積はぐっと言葉に詰まる。居心地が悪そうに視線を逸らし、眉間にしわを寄せる。

だが、彼の貴重な照れ隠しの表情は、すぐに出番を終えることになった。

「前回のわがままを踏まえて、ちゃんとしたディナーメニューにしたでしょう? キミってば贅沢者に育ったね」
「庶民の感覚に寄り添えなければ、後々困るぞ」
「マジで金のかかる男だよな」
「……みんな、誕生日くらい優しくしてもいいんじゃないかな」

綾瀬、逸見、仁志の順に放たれた辛辣な言葉の数々に、一気に空気が凍りつく。歌音がやんわりと制止をかけるものの、そんな控えめな物言いで止まるわけがない。

「今さら優しくしたところで、穂積の捻くれた性格が治るわけでもないしなぁ」
「十八年かけて出来上がったのが、この人格か。色んな意味で感慨深いな」
「碌鳴教育の敗北ってやつだな。俺、歴代の担任に同情するわ」

続く猛攻に頬を引きつらせたのは、当の穂積ではなく神戸と鴨原の二人だ。同意することも否定することも出来ず、一心不乱に食事を口に詰め込んでいる。

新役員たちの青褪めた顔に、光は同情のため息をついた。

「綾瀬先輩は別として……逸見先輩と仁志は言い過ぎです。会長も今日に限って言わせたい放題でどうしたんで――」
「せっかくの祝いの席だから多少は目を瞑るつもりだったが、お前らいい度胸だな」
「あ、ですよね。黙ってるわけがなかった」

不穏な気配を全身から立ち上らせ、品の良い作り笑いを浮かべる姿にほっとする。やはり穂積はこうでなければ。

そう思ったのも束の間、穂積が反撃対象に選んだのは、意外な人物だった。

「チンピラくずれの金髪馬鹿はともかく、久しぶりに敬語が抜けたと思ったらそれか、逸見。お前の方がよっぽど性格に問題があるだろう」
「生憎、仕事を離れてまでお前に敬語を使う理由はない。一つ年を重ねたところで、自信過剰は治らないか。さすがは「穂積様」だ」
「無理をするな。歌音至上主義のお前のことだ、嫌味とはいえ他の人間に敬称をつけるのは耐え難いだろう?」
「中身のない敬称に意味などない。気遣うくらいなら、多少なりとも敬意を払える人格を養え」

逸見はにやりと口角をつり上げると、平然とした様子でグラスを傾けた。

「……お前、本当に性格悪いな」




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