表と裏。




臨時集会が開かれたのは、事件の翌日。昨日の衝撃を引きずり興奮気味の生徒たちは、大講堂の舞台に現れた人物に驚愕した。

そして彼らの驚愕は壇上の一人が語る「真相」によって、さらに大きなものとなった。

『武装集団による碌鳴学院の占拠――これは全校生徒及び教職員を対象とした、抜き打ちの非常事態訓練です』

要人の関係者が多く集う碌鳴学院では、以前よりテロ事件などの有事を想定した訓練が定期的に実施されている。

しかし、事前に通知を受けての訓練では緊張感が薄れ、真剣に取り組まない者がいるのも事実。

これを防止するため三年に一度、実施時期を含めた一切の詳細を伏せて抜き打ちの訓練が行われる――舞台中央でマイクを取る男は、そう口にしたのだ。

舞台袖から客席側を覗いていた光は、そこに並ぶいくつもの唖然とした表情に深く同情した。

昨日の内に知らされていた光ですら、未だに受け止めきれていないのだ。生徒たちの心境は手に取るように分かった。

『今回の一件、皆さんはどのように感じたでしょうか。テロ事件の渦中に置かれ、冷静に適切な行動をとれたでしょうか。今回はあくまで訓練ですが、このような状況に陥る可能性は皆無ではありません。むしろ、他の人よりも高いでしょう』

続く男のセリフに、大講堂に満ちていた動揺が静かに引いて行く。年齢に見合った深く重みのある低音に、誰もが自然と襟を正して耳を傾けている。

生徒と同じく話に集中しようとした光は、傍らから届いた失笑に意識を浚われた。

「すべてを明かすつもりはないということか」
「……会長?」

穂積は腕を組んだ尊大な姿勢で、ステージの中央を見据えていた。口元に浮かぶ皮肉げな笑みの理由が気になって、小さく問いかける。

「今回の一件、確かに訓練であることに違いはない。だが、それだけでもないということだ」
「どういうことですか?」
「利用されたんだよ。宮園の内部試験に」

答えたのは、うんざりとした様子の仁志だ。舞台袖のパイプ椅子に腰かけた男は、眉間に深い縦ジワを刻んでいる。

彼の端的な回答だけでは理解が得られず首を傾げると、それを補足するように穂積が続きを引き取った。

「宮園総合セキュリティの実態については知っているか?」
「昨日、知りました」

碌鳴学院の運営母体である宮園総合セキュリティは、民間の警備会社という表の顔とは別に、特殊なエージェントを抱える軍事会社にも似た裏の顔がある。

碌鳴学院を含めた契約対象に危機が迫れば、本格的な戦闘訓練を積んだ工作員が派遣されるのだ。

「昨日の襲撃者たちは、エージェント候補だ。大規模施設の制圧を経験させるなら、利用しない手はないからな。候補生の試験課題として、碌鳴学院を占拠させたんだろう」
「いいんですか、それ」
「合理的ではある」

淡々と返され、光は口を噤んだ。

穂積の言う通り、碌鳴学院の訓練とエージェント候補の試験をまとめて行えば、余計なコストを省くことが出来る。

だが、学院を解放するため奮闘した身からすると、企業側の理屈は受け入れがたかった。

「……今回のこと、会長は知っていたんですか?」




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