◇
「かい……」
「光っ!!」
会長、何しに来たんですかっ!?と言う台詞は、さらにまた別の声に遮られた。
人の最期に次から次へと何だ。
穂積のものよりも、明らかに離れた場所から呼んでいるのか、張り上げた相手の叫びはやや掠れている。
穂積からどけた少年の視界に入って来たのは、最初に逃げていた相手。
ブリーチの金髪が、向かい合う形で造られている西棟の窓で輝いていた。
「仁志までっ!?」
「今そっち行くからもうちょいネバれっ!!」
「生徒はすぐに解散させるっ!もう少し我慢しろっ!」
二人に言われた光は、室内の様子に首をぶんぶんと振った。
「無理っ!無理無理無理っっ!!俺、もうここで死ぬしかないっ!」
「馬鹿言ってんじゃねぇよっ!!」
馬鹿なことがあるものか。
どうして人が生を諦めようとしているときに、希望の灯なんかチラつかせるんだ。
どう考えたって、穂積たちが生徒たちを解散させるのは間に合わないのに。
じりじりと距離を狭める暴徒たちは、ただ光を潰すことだけに思考が満たされているのか、これだけ大声で会話をしているというのに、自分たちの大好きな存在が外に居ることなど、少しも気付いていないのだ。
現実はなんて残酷。
妙な演出のせいで、みっともなく生きることに執着してしまいそうだ。
こんな絶対絶命のピンチ、逃げられるはずがないのに。
そう、絶体絶命の。
不良グループに潜入したときのような、絶対絶命の……。
「いいかっ、すぐにそっちに行くからゴミ虫らしくしぶとく生きていろっ!」
「ちょっ、待って動かないで会長っ!」
「なにを言って……っ!?」
答えなど待たなかった。
窓枠に足を掛けた少年は、そのまま迷わず。
細い体を宙に投げ出したのである。
- 72 -
[*←] | [→#]
[back][bkm]