自虐的な攻撃性に満ちた瞳を、静かに見つめ返す。

強張っていた神戸の表情がくしゃりと歪み、複雑な笑みが口元に浮かんだ。

「俺はお前みたいになれない。すぐに頭に血が上るし、口は悪いし、喧嘩だって弱い」
「……」
「呆れただろ? 勝手に自分とお前を比較して、馬鹿みたいに嫉妬してるんだ。もう終わった、今さらどうしようもないこと気にしてさ。だせぇよな」

光が神戸と交流を持って、まだ一カ月も経っていない。

彼の性格を把握しているとは言えないし、その身に背負う事情や悩みなど想像も出来ない。

小鳥と婚約関係にあることだって、今しがた知ったばかりだ。

けれど、光にも分かることがあった。

「違うだろ」
「やめろよ、お前に慰められると余計に虚しく――」
「ださいのは、そんなところじゃないだろ」

自嘲のセリフを遮って、はっきりと断言する。

下方から向けられた胡乱な視線を、光は真剣な面持ちで見つめ返した。

「俺は神戸のこと、かっこいいと思うよ」
「なっ――!」
「謝ってくれただろう、俺に」

神戸の顔が、火でもついたかのように赤くなる。

荒んでいた瞳が混乱に瞠られ、視線が落ち着きなくあちこちへ移動する。

傍目にも明らかな動揺に、内心だけでほっと安堵しながら言葉を継いだ。

「新生徒会の顔合わせの日、神戸は俺に謝ってくれた。書記方の代表として、まっすぐに「ごめん」って言ってくれた」
「そ、それのどこが、かっこいいんだよ! 俺たちが悪いんだから、謝るのは当然じゃんか!!」
「うん、当然のことを当然だと言えるから、かっこいいんだ」


――ごめんなさい


あの日渡された謝罪の意思は、光にとって衝撃だった。

自らの非を認め、心からの反省を込めて頭を下げる。

人としてごく当たり前のことであっても、それを行動に移せる人間は多くない。

まっすぐに気持ちを表す仁志や、過去に光へ誠意のある謝罪をした穂積ですら、神戸の口にした言葉は言えないだろう。

神戸のような飾らないありのままの心では、いられないはずだ。

もちろん、光だって。

「神戸はきっと、誰よりも自分のことを分かってる。だから、自分の欠点も分かるし自分の感情をそのまま言葉に出来る。お前は俺のことを褒めてくれたけど、それは俺にないお前の長所だ」
「……」
「逃げてどうする。お前のかっこいいところ、なくすなよ」

完璧な人間など、この世にはいない。

人は誰しも自らの欠点を厭い、時に目を背け、時に苛立ち、時に他者を羨む。

ありのままの自分自身を認められず、自己嫌悪に陥る気持ちは光にも理解できる。

しかしそれでは、いつまで経っても変わらないのだ。

欠点ばかりに意識を傾けて、数ある美点を見過ごし続けては、やがてそれも失われる。

根気強く磨き上げてこそ、長所は輝きを帯びた玉になり得ることを、忘れてはいけない。




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