「あのときいたくせに、なに言ってんだよ」
「あのとき?」
「元会長方に拉致られただろ、お前と小鳥が」

それは九月の終わりに行われた、碌鳴学院での交流会のこと。

会長方を解散に追い込んだ報復として、光は彼らから制裁を受けた。

居合わせた小鳥を人質に取られては反撃も出来ず、委員会棟の一室で暴力に耐え続けたのだ。

穂積が扉を蹴破り現れたときの、歓喜と絶望を忘れはしない。

記憶を振り返る光は、ふとある光景を思い出した。

穂積に続いて仁志率いる書記方が救出に飛び込んで来た際、そのうちの一人が小鳥のもとへ駆け寄りはしなかったか。

絶望感に支配されていたせいでうろ覚えだが、小柄な委員が少女を助け起こしていたはず。

「もしかして、あの委員って神戸? あれ、でも黒髪だった気がするんだけど」

燃えるような赤髪を見下ろしながら呟けば、相手は気まずそうに目を逸らした。

「染めたんだよ、あのあと」
「へぇ、お前本当によく髪の色変えるな」

サバイバルゲームから現在までの数か月で、神戸の頭は金髪に黒髪、赤髪と変化している。

調査ごとに異なる容姿になる光でさえ、これほど短い期間で髪色を変えたことはない。

飽き性なのかと考えていると、予想外のセリフが耳を突いた。

「黒髪のままでいられるわけねぇだろ、お前と同じ髪色なのに」
「なんだ、それ」
「……髪の色を真似したって、俺はお前みたいに冷静にはなれないんだよ」

自己嫌悪の滲む声音に、光は眉を寄せる。

まるで神戸が黒髪になったのも、赤髪になったのも、光が理由とでもいうような口ぶりだ。

光を真似して金髪を黒に染め、光に近づけないから黒髪を赤に染めたというような。

ふと思い起こされたのは、仁志の言葉だった。


――こいつな、ころころ髪色変えるんだ。そんとき一番影響受けてる人間を真似するんだけどよ


仁志はこう続けた。


――七月まではずっと、俺と同じ金髪だった


七月、それは光と神戸が初めて接触した七夕祭りが開催された月。

神戸が光に「助けられた」と語る一件があった時期だ。

辿りついた答えを肯定するかのように、神戸は心の内を吐き出した。

「俺はなれなかった。どんなに意識したって、お前みたいにはなれなかった。喧嘩売って来たヤツを諭すなんて無理だし、小鳥を守ることも出来なかった……!」
「なに言ってるんだ。お前たちが来てくれなかったら、どうなっていたか――」
「守ったのは長谷川だろ!?」

突き刺さる視線に憎しみとよく似た激情を見つけ、光は言葉に詰まった。

自分と小鳥を助け出したのは、神戸の所属する書記方だ。

駆けつけたのは穂積が最初でも、小鳥の保護や事後処理を担当したのは彼らである。

だが、神戸が言っているのはそこではなかった。

「長谷川、やっぱすげぇよ。出会ったばかりの相手の盾になって、無抵抗のまま殴られるなんて普通できない。俺には無理だ」
「……彼女を巻き込んだのは俺だ」
「そうだな、お前がいなきゃ小鳥はあんな目に遭わなかった。けど、お前が庇わなきゃ小鳥は無傷でいられなかった。お前は守ったんだよ、小鳥を」

皮肉びた声音で紡がれる言葉は、どこか責めるようにも聞こえる。

だが、糾弾の対象は自分ではないと、光は気付いていた。




- 782 -



[*←] | [→#]
[back][bkm]



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -