鳳桜館へと続く道の先に、見知った二人を発見したのはそのときだ。

意外な組み合わせに足を止めた光に合わせて、新村も立ち止まる。

光たちから少し離れた場所にいるのは、神戸と小鳥だった。

小鳥はピンク色の小さな包みを大事そうに腕に抱えて、仏頂面の神戸に笑顔で話しかけている。

顔合わせの際、神戸の小鳥に対する態度は些かおかしかった。

あれ以降、二人が言葉を交わすところは見ていない。

彼らの間にはなにかがあるのかと思っていただけに、つい声もかけず様子を窺ってしまう。

会話に集中しているのか、二人がこちらに気付く気配はなかった。

「昨日のことがあったから心配してたけど、夏輝も成長したのかな」
「え?」

感慨深げな呟きに視線を移せば、新村は光よりも真剣な眼差しで前方を見つめていた。

いったいどういう意味なのか。

問いかけなかったのは、苛立ち交じりの声が鼓膜を打ったためだ。

「だから、しつこいんだよ!」

慌てて目を戻すと、振り払った神戸の腕が小鳥を突き飛ばしていた。

直撃はしなかったのか、小鳥は二、三歩よろめいただけで踏みとどまる。

だが、突然の衝撃に負けた包みは、彼女の手を離れ呆気なく地面へと落下した。

瞬間、光は神戸の顔に後悔の念が過るのを見た。

「っの、バカ! ……おいコラ! 夏輝!」
「っ!?」

並木道に響き渡った新村の怒声に、二人は弾かれたように振り向く。

要領を得ない光とは異なり、彼女は事態を正確に理解しているらしい。

ずんずんと足取り荒く近づいて行く背中について行く。

しかし、光たちが彼らのもとに辿りつくより早く、神戸は脱兎のごとく逃げ出した。

舗装された煉瓦道を外れて、林立する木々の合間を駆けて行く。

「あ! 待て、逃げんな!」
「俺が行く」

「ふざけんなよ!」と怒鳴る鳳桜副会長を片手で制して、光は神戸の後を追いかけた。

冬支度を済ませた林の中で、神戸の赤い髪は非常に目立つ。

派手な頭を目指して走れば、すぐに距離は縮まった。

神戸と小鳥になにがあるのか、なぜ神戸は小鳥を拒絶するような言動をとるのか。

事情はさっぱり分からないが、一つだけ確かなことがある。

「女の子を突き飛ばして、謝りもしないのはどうなんだよ。神戸」
「はぁっ……わ、って……るよ……っ」

林を抜けた先の道に、神戸は肩で息をしながら座り込んだ。

自業自得なので心配するつもりはないが、途切れがちの返答にもう少し待てばよかったかと思い至る。

呼気一つ乱していない光を、神戸は恨めしそうに見上げた。




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