しかし、事態は穂積の予想を見事に裏切ってしまった。

仁志がどうして長谷川から離れたのかは、所用で席を立っていた穂積には分からない。

モニターを常に監視していたであろう歌音も、決定的な瞬間は見逃しているようだったから、部屋に居たとしても結果は同じだろうが。

けれど問題はそこではなかった。

仁志が離れれば、長谷川を攻撃しようと思う人間は格段に増える。

どんな手を使ってでもあの少年を仁志の傍から消してしまいたいと思う厄介な連中は、確実にいる。

自分のファンとて同じだ。

光の暴挙を率先して周囲に告知したのは穂積なのだから、会長方の面々が彼をどれほど憎く思っているかなど言うまでもない。

光が『本当に』危険な状態にあると理解した瞬間、穂積は動かなければいけないと、無意識のうちに思ったのだった。

「確かに傲慢だな」

呟きは自身を嘲るもの。

想定外の事態だと言ったところで、穂積が光を危険に突き落としたのは紛れもない事実だ。

にも拘らず、こうしてあの不恰好な少年の身を案じながら捜索している自分は、光の言うとおり傲慢以外の何者でもない。

自覚しているよりも重度だったかと気付けば、苦い気分にもなってしまう。

罪悪感は少しもないが、助けなければいけない。

一種の義務感のようなものが、穂積の中に存在していた。

そうだ、助けなければいけない。

『彼』は助けなければいけない。

自然に抱いた思いは不可思議過ぎた。

なんだそれは、と無理やり一蹴して考えを打ち消す。

「これは、俺のミスだからな」

ミスをフォローしたいだけ、挽回したいだけなのだと、穂積は半ば無理やり己に言い聞かせた。

苦味が強くなりそうな気配を誤魔化そうと、彼は光を見つけることに集中しだす。

コの字の内側から外へと出てきたことで、残りの両棟共を見回すことが可能だ。

グルリと視線を配る。

ふと気付いたのは、大講堂を出てからこちら、見かけた生徒の少なさであった。

光を潰すためにゲームに参加した生徒は、例年の倍。

もっと目にしてもいいはずだが、異常だ。

何かとてつもないことが起こっている予感に、動悸が不気味に高鳴る。

五感を研ぎ澄ませて気配を探る男は、鼓膜を振るわせたざわめきに、はっと東棟を見上げて―――

目を見開いた。

「長谷川っ!」




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