「って感じで、朱莉がうるさくってさ。光のはっきりとした素顔も地毛も見れずじまいなわけ」

集合時間を大幅に過ぎて現れた新村と五十鈴を、別の控室に引っ張り込んだ。

ステージに上がる準備があると文句を言われたが、詳しい事情を聞かなければ開会式など出来そうにない。

鬼気迫る勢いで光の変貌について問い詰めれば、新村が口惜しそうに言った。

「こっちで色々とアイテムを組み合わせて、出来上がったトータルコーデを光に渡して着替えてもらったんだよ。全体的に色素が薄いっていう情報しかもらえなかったのに、結構頑張っただろ」
「どういうことだ」
「素顔を見ないという条件で、光さんが妥協してくださったの。本来の姿と異なる印象のスタイルを作ってほしい、と仰られて」

五十鈴の説明は、仁志がもっとも聞きたかった点を教えてくれた。

どうやら光は、千影の姿を死守したようだ。

強引極まりない女たちを相手に、変装に気付かれただけで済んだのは奇跡と言える。

それどころか二人の暴走を利用して、新たな「長谷川 光」を生み出した友人に驚嘆した。

「クールビューティー系は久一がいるだろ? だから朱莉の言葉をヒントにしたってわけ」
「それでアレになったのか。確かに、今までとも素顔とも違うな」
「あぁ、やっぱりお前は素顔を知ってるのか」
「まぁな。……おい、光が変装してることは誰にも――」
「分かってる、誰にも言わない」

はっきりとした返答に遮られ、目を瞬く。

野暮ったい鬘や時代錯誤な瓶底レンズの眼鏡で、素顔を隠していたのだ。

変装には何がしかの理由があると察したのだろうが、ここまで力強く首肯されるとは思わなかった。

意外な気持ちでいると、相手は予想外の返答を口にした。

「よく分かんないけど、あいつ逃げてるんだろ? 敵対する組織に追われているって、朱莉が教えてくれたよ」
「あぁ?」
「あら、違いますわよ。光さんに熱烈な恋をした対立チームの総長が碌鳴にいるから、素顔を隠しているって聞きましたわ」
「はぁ!?」

何がどうしてそうなったのか。

聞いたこともない話にぎょっとする。

光に敵対する組織がいることも、熱烈な求愛をする総長がいることも初耳だ。

過剰な妄想力を有する川神の発言が、思いがけず情報操作に繋がった結果だった。

先を行く小鳥たちが足を止めたことで、仁志は回想を打ち切った。

開会式の後は、体験授業が予定されている。

一年の鴨原は川神が、夏輝は五十鈴の案内でそれぞれのクラスに向かった。

光が参加する新村のクラスは2―Bだ。

「じゃあ、また昼休みに」
「……あんま考えなしに動くなよ」

軽く釘を刺すと、相手は「なんだよ、それ」と小さく笑う。

紫水晶がきらりと輝くような華やかな笑顔は、周囲の生徒たちにも見えていたらしい。

少女たちの黄色い悲鳴に鼓膜を貫かれ、仁志は内心で「それだ、それ」とツッコミを入れる。

だが、好意という理由で騒がれ慣れていない光は、今一つ現状が理解できていないようだ。

不思議そうに小首を傾げながら、新村に促されるまま教室のドアに手をかける。

それを見届ける前に、仁志も小鳥のクラスである2−Aに足を向けた。

「きゃっ!」
「っと……大丈夫? 怪我はない」

だが、いくらも進まないうちに背後から届いたやり取りに、勢いよく振り返る。

飛び込んで来たのは、小柄な少女が光の腕の中で顔を真っ赤にしている光景だ。

大方、廊下の騒ぎに引き寄せられた少女と、教室に入ろうとした光がかち合ったのだろう。

紳士的な態度で女子生徒を気遣う光に、眩暈を覚える。

「いつの少女漫画だよ……」
「光くんはお優しいですから……」

小鳥のフォローは何の慰めにもならない。

再び湧き上がった歓声に、仁志は悟った。

昼休みに光と合流することは不可能だろう、と。




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