SIDE:仁志

四方から聞こえる喜色の籠った囁きと、驚愕の感嘆符。

開会式は終わり始業の鐘も鳴ったというのに、廊下は幾人もの少女たちで溢れている。

皆、抑えきれない興奮から頬を薄紅に染め、爛々と輝く瞳で左右に割れた人波の間を通る一行を見つめている。

小鳥と新村に先導されるのは、碌鳴生徒会の新会長と新副会長だ。

昨日までならば、彼女たちの注目をもっとも集めたのは仁志だったはず。

生徒たちにとって非日常的な存在であり、家柄も容姿もトップクラスの仁志は、鳳桜学院でも頗る人気が高い。

だが、数多の視線が向かう先にいるのは、傍らを歩く友人だった。

「なぁ……なんでここまで目立ってるんだ」

小声で問われて見返せば、居心地が悪そうに頬を引きつらせる光の顔がよく見える。

以前は学院中の悪意を受けても平然としていたくせに、好意を浴びるのは慣れないらしい。

傍目にも明らかに動揺しているのが分かった。

仁志は苦く笑いながら、口を開いた。

「碌鳴の新副会長はもっさい頭をした瓶底レンズの眼鏡くん」
「は? なんだよ、いきなり」
「鳳桜で広まっていたお前の事前情報だ。昨夜の食事会でここの生徒たちに聞いたんだよ」

一般庶民から生徒会入りを果たした光の存在は、交流会以前より鳳桜学院でも認知されていた。

学力や運動能力は申分なくとも、家柄や容姿は綾瀬の後任を務めるには不十分もいいところ。

特に容姿は、現生徒会長である穂積から「ごみ虫」と評されるほど不格好。

鳳桜学院で噂される「長谷川 光」像は、系列校なだけあってかなり正確性の高いものだった。

「最低レベルの外見を想定してたのに、いざ顔を見たらコレだろ。騒がれて当然だっての」

素顔を知っている仁志ですら驚いたのだ。

キザキといい今回のコレといい、装いだけでここまで印象が変わるとは信じられない。

事前情報を裏切る姿を見て、鳳桜学院の生徒たちはどれほど衝撃を受けたのか。

仁志は改めて見慣れない姿の友人をじっと見つめた。

艶のあるストレートの黒髪と対比する、精緻に整った白皙の美貌。

サイドに流れる長めの前髪の下には、理知的な印象を受けるフルリムの眼鏡がかかっている。

四角いレンズの奥に並んだ黒い双眸は、光りの角度によって紺青へと色を変え、不可思議な引力で見る者を惹きつける。

これまで隠されていた目元だけでなく、通った鼻筋も薄い唇も決して中性的ではない。

しかし、僅かに微笑むだけで溢れ出す近寄りがたくも誘うような美しさは、性別をおぼろげにする。

幻惑的な魅力を纏った神秘的な美少年。

それが今の「長谷川 光」だった。

「なるほど」と説明に得心する光に視線を据えたまま、仁志はこの容姿を生み出した少女たちとの会話を思い返した。




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