今にも口論に発展しそうな二人に、仁志は声を張り上げた。

「やめろ、こんなときに! 三葉に頼んでここの補佐委員に捜索させてる、あとはそいつらに任せて、俺らは開会式に出るぞ」
「ですが、会長っ」
「心配なのは分かる、俺だって探しに行きたい。けどな、自分に与えられた仕事を放り出すわけにいかねぇだろ」

食い下がる鴨原に諭す言葉は、自分自身に言い聞かせるものでもあった。

もしもこれが先月までだとしたら、仁志は誰よりも先にこの部屋を飛び出して光を探していた。

あとのことは穂積たちに任せて、自分の感情を優先して動いていた。

けれど、今の仁志は生徒会長だ。

組織の頂点に立つ者として、感情に惑わされずに物事の優先順位を見極める必要がある。

自分の迷いや苛立ちが、そのまま役員に伝染するのだと実感して、仁志は必死で自らを落ち着けた。

手にした携帯電話がその身を揺らしたのは、次の瞬間だ。

即座に耳に当て、受話口へと怒鳴りつける。

「おい光! てめぇ今どこにいんだ!」

先ほどのセリフが虚勢であったと、鴨原たちにバレてしまうことなど忘れて、仁志は返事を待った。

僅かな間を置いて返って来たのは、仁志の怒声と同じくらいの大声だ。

『鼓膜が破れるだろうが!!』
「あぁ? お前、新村か?」
『ディスプレイ確認してから電話を取れよ! あぁ、もう耳痛い』
「今、お前に構っている余裕ねぇんだよ。お前、光見なかったか? つか、今どこにいる。三葉が探してんぞ」
『一度に色々言うなよ、面倒くさいヤツだな。今、向かってるよ。あと光ならもうそっちに着くだろ』
「は?」

意外なセリフに、仁志の口から間抜けな疑問符が転がり出る。

まるで新村は、光の動向を知っているかのようではないか。

そもそも新村は、今なんと言ったか。

「黒もじゃ」と呼んで罵っていた外見至上主義の彼女が、「光」と名前で呼んでいなかったか。

瞬間的にフリーズした思考回路を強制的に動かすように、仁志は詳しい話を聞こうとした。

けれど、それに待ったをかけるように、控室の扉をノックする音が室内に響く。

「あぁ!? このくそ忙しいときに誰だよ! 鍵なんてかけてねぇから、勝手に入れ!」
「会長……その言い方は――」

呆れたようにため息を吐く鴨原だったが、静かにドアが開くや喉を詰まらせた。

おずおずと入って来た人物に、仁志の目も驚愕で見開く。

「お、まえ……」
「連絡入れられなくて、悪かった。その、待たせてごめん」

そういって決まり悪そうに謝ったのは、仁志のよく知る「長谷川 光」であり、初めて目にする「長谷川 光」でもあった。




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