新しい顔。




SIDE:仁志

交流会の開会式を目前にして、仁志は苛立たしげに携帯電話を睨みつけていた。

式が執り行われる大講堂にはすでに生徒たちが集まっており、舞台裏に並ぶ控室まで喧騒が届いている。

碌鳴学院で聞くよりも、ワントーン高い音色に思えるのは女子校がためだろう。

生徒たちが噂をするのは、もう間もなく舞台上に現れる鳳桜生徒会と仁志たち碌鳴生徒会についてだ。

昨夜、新村に引きずられて歓迎会と称した食事会に参加した仁志はもちろん、神戸や鴨原の情報も飛び交っている。

一定レベル以上の家柄であり、見目も良い彼らに対する評判は上々だ。

特に神戸は、以前から鳳桜学院でも名が知られている。

数分後に始まる開会式では、歓声を浴びるだろうと予想が出来た。

問題はただ一人。

家柄や後ろ盾もなく容姿も冴えない少年が、碌鳴学院の新生徒会副会長として登壇したとき、果たして鳳桜の生徒たちは何を思うのか。

女の反応は、ときに男よりも露骨だ。

それくらいで光が挫けるとは思わないが、仁志は交流会の前からずっと心配をしていた。

けれど今、仁志の心配は別の問題に注がれていた。

「駄目です、長谷川どこにもいません!」
「私の方でも見つけられませんでした。仁志会長、連絡は……」

息せき切って控室に飛び込んで来た二人に、仁志は首を横に振る。

強く握り過ぎて汚れたディスプレイを制服のズボンで拭いて、仁志はもう何度目になるか分からない通話ボタンを押した。

光の失踪に気付いたのは、大講堂に来た後だった。

一人で朝食をとって、早めに控室に到着しているものとばかり思っていたのだが、いつになってもあの鳥の巣頭が現れない。

神戸や鴨原も姿を見ていないと言うので、不審に思いながら電話をかけた。

留守番電話サービスのガイド音声を三回聞いたところで、我慢の限界が来た。

現会長である小鳥に事情を説明し、鴨原と神戸に迎賓館とその周辺の捜索を指示した。

ここは女子校である鳳桜学院だ。

光の情報がすでに生徒たちに流れていて、悪印象を持たれていたとしても、直接的な制裁行動を取る輩はいないはず。

女の悪意は男のそれよりもずっと秘匿性が高く、狡猾で周到なものなのだ。

そう頭では理解していても、やはり過去を振り返れば不安は拭えず、仁志の胸は不穏な鼓動を打ち鳴らしていた。

「光のヤツ、マジでどこ行きやがった」
「もう一度、辺りを探してきます」
「待てよ、ヒサ! もうすぐ開会式が始まる!」
「それまでには戻りますよ」

仁志の焦燥が伝染したかのように、他の役員二人も浮足立つ。

滅多に顔色を変えない鴨原が、腕を掴んで押し留める神戸に眉根を寄せた。

「長谷川先輩がいなくなったんですよ。仁志会長やあなたならば兎も角、あの長谷川先輩が、です。もし一刻を争うような事態だったらどうするんです」
「なんだよ、それ!」




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