箱庭の恋。




鳳桜館での挨拶を終えると、光たちは職員寮に併設された迎賓館に案内された。

装飾性の高い建物の多い鳳桜学院の中で、迎賓館は二階建ての瀟洒な洋館だった。

吹き抜けの天井から下がるシャンデリアに照らされた、大理石の床の輝くエントランスロビーを通り、客室の並ぶ二階に上がる。

ラウンジスペースで鍵を受取った光は、小鳥から告げられた「解散」の言葉に驚いた。

十月に碌鳴学院で行われた交流会では、鳳桜学院から来た篠森と小鳥が仕事を手伝ったと聞く。

「交流会」とは名ばかりで、実際には仕事に追われる碌鳴生徒会のサポートをする二泊三日なのだと。

「あぁ、それは穂積様と篠森様が婚約者同士だからだって」
「は?」

神戸の言うところを掴み損ねて、光は力強く疑問符を口にした。

箸の動きを止めて、正面で牛フィレのステーキを頬張る少年を凝視する。

その豪快な食べ方は良家の子息らしくはなかったが、見ていて気持ちのいいものだ。

唇についたソースをぺろりと舌で舐めとってから、神戸は説明を始めた。

「穂積様と篠森様が婚約者の間柄っていうのは知ってるだろ? 二人がそれぞれ碌鳴と鳳桜の生徒会長に就任したことで、交流会の期間中は相手の仕事を手伝うようになったんだってさ」
「つまり、昔からの慣例ではないってことですか」
「らしい。俺も仁志様に聞いただけだから、詳しくは知らないけど」

鴨原に頷いて見せると、神戸は再び大きく開いた口に肉を放り込んだ。

自由時間を得た光は、新役員の二人と共に迎賓館内にあるレストランに来ていた。

鳳桜学院に到着したのが夕方だったので、夕食にはちょうどいい時間だ。

窓際のテーブル席で手入れの行き届いた中庭を臨みながら、誰に気兼ねすることもない気楽なディナーを楽しんでいた。

「そう言えば、仁志会長はどうされたんですか?」
「誘ったけど、新村に引っ張られてどっか行っちゃったんだよ。なにか聞いてるか、長谷川」
「……え?」
「だから、仁志様がどこ行ったかって」

神戸の問いかけに、光は慌てて口を開いた。

「あ、あぁ。なんか鳳桜にもファンがいるらしくて、その子たちと食事するんだってさ。本人は嫌がってたけど、新村副会長に強制連行されてたな」

系列校とは言え、遠く離れた他校にまでファンがいるとは、仁志の人気も侮れない。

親衛隊と呼べるまではいかなくとも、その人数は決して少なくないという。

仁志の容姿が優れていることを思い出し、驚きつつも納得する。

だが、同じく得心した様子で呟かれた神戸の言葉に、光は目を瞬かせた。

「なるほどなー。顔も家柄も良くてフリーと来れば、女子が寄って来ない方がおかしいもんな」
「なに言ってるんだよ。仁志には綾瀬先輩がいるだろ」

仁志が綾瀬に想いを寄せていることは、碌鳴では割と知られた話だ。

恋人関係に進展したことも、すでに広まっている。

元書記方にして現新会長方の筆頭を務める神戸が、それを知らないわけがない。

訝しげに眉を寄せる光は、自分とよく似た表情を対面に見つけた。

「長谷川こそなに言ってんだよ。そりゃ確かに、仁志様と綾瀬様はお付き合いされているけど、碌鳴に限ったことだろ」
「は?」
「いつまでも続けられる関係じゃない」

言い難そうに告げられた内容に、光は息を呑んだ。




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