「いい加減諦めろっ!!」
「無駄なんだよ根暗ぁっ!」
「仁志様に近寄りやがってっ。てめぇの顔を見たことあんのかよっ!」

背中に叩き付けられる悪意や敵意。

殺意よりもよほど恐ろしい感情。

純粋な敵愾心は限度を見誤りやすく、気付いたときには死んでいた。そんな事件を引き起こす。

捕まれば最後だ。

どうしようもなくなった少年は、絶対に取りたくはなかった道を選ぶしかなかった。

一番近くに見える階段を、上ったのである。

二階、三階。

段差に足を乗せてしまえば止まらなかった。

二階から別の階段を下りればよかったのに。

華奢な身体の中には、焦りと不安、そして紛れもない恐怖がいっぱいに詰まり、冷静な思考を奪ってしまった。

取ってはならない行動をしてしまった事実もまた、光から正気を殺した一因だろう。

さらに四階まで行こうとした少年は、しかし防火シャッターで完全に封鎖されている四階へ続く階段に気付き、仕方なく三階の廊下を駆け出す。

自分一人の足音と、膨大な量の足音。

多くの負の感情を浴びせられ、柔ではないはずの心も怯えてしまいそうだ。

「お…れって……っは、運ワルっ……っ」

なけなしの理性で自嘲した光は、けれど一本道の廊下で急に失速した。

完全に足が止まる。

体力の限界も来ていたが、理由は他にあった。

背後に続く生徒たちの足も止まった。

「ははっ、残念だったなぁ」
「ヲタ撲滅運動開始ってか?」
「僕らの仁志様に纏わりついて、生きてられるわけなねぇだろブスっ!」
「そうだっ!お前なんて……」
「お前なんて……」

光の世界から、生徒の罵声が消えた。

もう耳に入れるのも億劫なのだ。

疲れたように硝子窓に肩で寄りかかる。

「俺、死ぬかも……」

背後には生徒の群れ。

そして。

正面にもまた、生徒の群れがいた。




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