相手は小柄な異性だというのに、まるで肉食獣を前にしたかのような危機感を覚える。

背を向けた瞬間に、襲いかかられるような不安を感じ、目を逸らしたいのに逸らせない。

正体不明の悪寒に肌を粟立てれば、見つめ合った瞳が鋭い光りを放ったような気がした。

「成長過程特有の細い身体、長い足と引き締まった腰、吹き出物一つない肌、すっきりとした顎のライン、高い鼻梁と形のいい唇」
「っ……!?」
「目元は隠していらっしゃいますけど、これだけで十分推測可能ですわね」

もう一度「うふふ」と微笑まれて、光は凍りついた。

「こわっ……」
「あら、夏輝さんたら。女の子にそういうことを言ってはいけませんわよ。わたくし、真実しか申し上げていませんもの」

神戸の呟きは、男性陣全員に共通した感想だろう。

初対面の男の外見を、事細かに観察し口に出す女など怖すぎる。

茶化す風でもなく、真剣な音色で語るところが余計に怖ろしい。

視界の端で、さり気なく鴨原が後ずさるのが見えた。

「つまり、なに? この黒もじゃって実はそういうことなのかよ」
「えぇ、十中八九そういうことですわね」
「碌鳴の新生徒会は地味にまとまったかと思ったけど、案外おもしろいな。バカ仁志は別としても、夏輝はやっぱり可愛いし、そこの眼鏡くんもクールビューティー系だし、滸ちゃんの後任は……えぇっと、なんて言ったっけ、ほらあの――」
「王道変装転校生!」
「そうそ……って、なんだそれ。お、おい、朱莉?」

二人の会話に突如、加わったのは鳳桜生徒会最後の一人だ。

華やかな面々の陰に霞んでいたが、彼女も十分に整った容姿をしている。

だが、何か様子がおかしい。

前髪を一直線に切ったワンレンボブの下にある、赤縁眼鏡に覆われた大きな二重の瞳はやけにキラキラと輝いている。

病的なほど白い肌が病気を疑うほど紅潮しており、艶やかな唇からは興奮の吐息が漏れている。

華奢な少女が放つ妙な気迫に、碌鳴生徒会だけではなく新村たちも引き気味だ。

「まさか本当に出会える日が来るとは思わなかった。今や廃れて久しいジャンルと言われているけれど、やはり変装転校生は王道にして定番。欠かせない属性。でもまさか副会長を兼ねているなんて。転校生は生徒会から総愛されが至高。だいたいなんで俺様会長じゃなくて不良会長なの。不良は同室者で一匹狼ポジションがデフォでしょう。あぁ惜しい、全部が全部ビミョーに惜しい」

高速で紡がれる呪文にも等しき言葉に、誰も何も言えない。

「不良二人に優等生二人は美味しいけど、どう見ても新生徒会はネコ三人にタチ一人。こうなるとキャラ被りのなかった去年の方が、バランスが取れていた気がする。はっ! まさか総攻め!? 総攻めなの!? いえ、待って。ネコ同士仲良くしているのもアリかナシで言えば正義。しかも五十鈴先輩の見立てだと転校生は成長過程ってことは、ネコに見せかけてのタチって可能性も――」
「分かった、よく分からないが分かったから落ち着け、朱莉。今すぐその妄想垂れ流しの口を閉じないとキスするよ」
「お構いなく、新村先輩。わたし、百合には興味ないので、って…………あ」

新村の脅しにいささかズレた返答をしたところで、ようやく我に返ったらしい。

一人で捲し立てていたときとは別人のように、身を縮めて恥ずかしそうに顔を俯ける。

消え入りそうな声が「す、すみません」と謝罪を告げた。

「……申し訳ありません、碌鳴学院の皆さん。鳳桜生徒会はご覧のとおり、少し個性的なメンバーが集まっていて」
「……いや、こっちこそ挨拶の途中で脱線して悪かった」

気まずい沈黙を打ち消すように、両校の新生徒会長が場を取りなす。

小鳥はぎこちないながらも笑顔をこしらえると、「さぁ、どうぞ」と言って半身を返した。

「そろそろ休み時間になりますから、まずは鳳桜館にご案内します。そちらで、改めてご挨拶をさせて下さい」




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