秘密の花園。
鳳桜学院は碌鳴学院の系列校だ。
外界から隔離された山中に位置し、全寮制を採用することで勉学に専念できる環境を作り上げている。
入学金や授業料は一般的な私学と大差はないが、防犯性の高さと充実した設備から富裕層の子女の入学が多く、上流階級を中心に評価を得ている。
学内では生徒会が絶大な権力を握っており、ヒエラルキーの頂点に君臨するのは生徒会長だ。
補佐委員会や親衛隊といったファン組織も存在し、学院内でのみ通用する常識も多数あるという。
「つまり、碌鳴の女子校版だ」
「だろうな」
非常に分かりやすくまとめた仁志に、光は大きく頷いた。
目の前に広がる光景は、今朝出て来たばかりの場所を彷彿とさせる。
鉄の門扉は百合のモチーフ、煉瓦畳の並木道には装飾性の高い街灯、シンメトリーが美しい白亜の校舎。
碌鳴学院よりも全体的に繊細で華やかな印象ではあるものの、学校とは思えぬ景観は確かに系列校だと感じさせる。
光たち新生徒会役員は、交流会のため鳳桜学院を訪れていた。
交流会とは、秋の始めと終わりにそれぞれの生徒会が相手校を視察する行事で、九月には篠森 薫子を始めとする鳳桜の生徒会が碌鳴に来ていた。
時期の関係上、碌鳴学院からは新生徒会が出向くのが通例で、仁志を含めた新役員たちは秘密の花園に足を踏み入れることになったのである。
守衛スタッフに案内されたのは校舎の前庭で、迎えが来るまで待機を指示された。
現生徒会でもあった仁志は、就任間もない頃に一度来たことがあるらしい。
落ち着いた様子でベンチに腰かけているが、神戸と鴨原はそうもいかないようだ。
神戸はやけにそわそわとして辺りを歩き回っているし、鴨原は居心地悪そうに眉を寄せて沈黙している。
碌鳴とよく似た雰囲気をしていても、やはり他校であり何より女子校。
思春期の男子としては、当然の反応だろう。
「夏輝、落ち着け。つか、鬱陶しい」
「す、すみません、仁志様! 落ち着きます!」
「それは無茶な注文だろ、仁志」
「出来るっつーの! だいたい、動揺なんかしてねぇし!」
「してるんだな」
相変わらず、墓穴を掘るのが上手い。
噛みつく神戸に苦笑していると、鴨原が感心したように言った。
「長谷川先輩は落ち着いていらっしゃいますね。仁志会長と違って、ここに来るのは初めてなんですよね」
「あぁ、初めて来た。けど、碌鳴とそこまで変わらないから、あんまり緊張はしてないな」
「しかし女子校ですよ」
僅かに驚いた様子の鴨原に、光は曖昧な笑みを返すに留めた。
潜入調査を行う以上、女性との接触は不可欠だ。
流石に女子校に潜入したことはないが、裏でドラッグ売買に手を染めていたキャバクラに、ボーイとして潜り込んだ経験はある。
自然体とまではいかなくとも、神戸のように隠しきれないほど狼狽えてはいなかった。
校舎から複数の人影が出て来たのは、会話が一区切りしたときだ。
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