呆然とした面持ちで硬直する光を正気に戻したのは、背後から届いた明るい声だった。

「光ちゃん! 久しぶり」
「え、あ……渡井」
「あれあれ? どうしたの、顔色よくないね」

隣に立った男は、光の様子に首を傾げる。

心配そうに顔を覗きこまれ、甘く整った面が視界いっぱいに映り込んだ。

「ちゃんと休んでる? 最近、忙しいでしょ」
「大丈夫。ちょっと考えごとをしていただけだよ」
「それってもしかして、新副会長方のこと?」

出された話題は、寸前まで思考の中心にあったものではなかったが、悩みの種であるのは間違いない。

流石、多くの生徒たちと関わる学院ホストだ。

相変わらずの情報通ぶりに、光は素直に感心した。

「光ちゃんの就任からまだ半月ちょっとだけど、残り時間を考えたら悠長にはしていられないでしょ」
「まぁな」

苦笑交じりに頷くと、売店に行くという渡井と共に歩き出した。

光が副会長の座に就くことは、未だに受け入れられていない。

声高に反対を主張する者こそいないが、学内に流れる空気は明らかだ。

補佐委員会は、各役員のファンで構成される。

有志による立候補制のため、役員に人気がなければ話にならない。

当然、光が作らねばならない新副会長方は、結成の目途すら立っていなかった。

「結成は年明けだけど、引き継ぎの問題もある。正直、人が集まる自信はないな」
「残る学内イベントは聖夜祭だけだからねー。光ちゃんの手腕を見せる場が少なすぎる」

生徒たちが光の生徒会入りに抵抗を示すのは、予想の範囲内だった。

最初にぶつかる問題であると、誰もが分かっていたし、その解決策をずっと模索して来た。

だが、有効な手はなかなか見つからない。

高い家柄も美しい容姿も持たない光が、唯一生徒たちにアピール出来るのは「実力」だ。

これまで定期テストや体育祭で示してきた個人としての能力ではなく、生徒会役員としての手腕。

すなわち、全体への貢献度と影響力だ。

しかしながら、日々の業務でそれを伝えるには、時間がかかり過ぎる。

さらに体育祭も文化祭も終わってしまった今、広く知らしめる場は限られていた。

「十二月の終わりまでこの問題を持ちこしていたら、役員としての資質を疑われるだろうな」
「アピールの場としては、最適なんだけどね」

頭の痛い問題だ。

インサニティ調査や穂積とのことばかりに、気を取られている暇はなかった。

どうしたものかと考えを巡らせていると、鼻先にカラフルな色彩が突きつけられた。

突然のことにぎょっとすれば、渡井が二本のロリポップキャンディーを手に笑っている。

「あんまり難しい顔していると、いいことも逃げてくよ。光ちゃん」
「いいこと、か?」

笑みを返しながらキャンディーを目で示すと、渡井は片目を瞑って見せた。

ウィンクをして様になるとは、色んな意味で器用な男である。




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