暴いた一枚。




SIDE:木崎

職員寮の防犯カメラの都合がついたのは、週明けのことだった。

日中の人が出払った時間帯を狙い、木崎は一人目当ての部屋の前に立った。

武 文也としては、あまり保健室を空けたくはなかったが、優先すべきは当然ながら調査だ。

「不在中」の札を見て困る生徒が出ないうちに、保健医に戻るつもりで、目の前の扉にカードキーを差し込んだ。

侵入したのは、佐原 裕也の寮部屋である。

自分が仮宿としている部屋と間取りは同じはずだが、主が異なるために受ける印象はまるで違う。

モダンなデザインの黒いソファに木肌の美しいチェーリー材のローテーブル。

揃いのシアターボードには大画面の薄型テレビやオーディオ関連一式が置かれ、アーチを描く間接照明が目に留まる。

どれも高級家具であるのは間違いなく、流石に手取りのよい碌鳴学院の教員といったインテリアだ。

壁際のキャビネットにはトロフィーやメダルが飾られており、佐原の顕示欲の強さを感じ取った。

「こういう典型的なヤツは、分かり易くていいな」

苦笑交じりに呟くと、木崎は書斎や寝室ではなくリビングから検め始めた。

自己主張の強い人間は、自らの秘密を人目に触れる危険がある場所に隠す。

見つかりそうで決して見つからない、その様子に満足感を得るのだ。

よりプライベートな空間である他の二部屋よりも、客を迎えるビングがもっとも疑わしかった。

木崎は手袋をした手で次々と部屋の至る箇所を調べて行く。

考える間を取らずに素早く暴いては、正確に元に戻す。

長年の経験によって磨かれた、技術とでもいうべき鮮やかな手際だ。

リビングを一通り見るのに、時間はさほどかからなかった。

しかしながら、肝心の探し物が見つからない。

欲しいのは佐原が密売人であるという証拠であり、決してコスプレアダルトDVDや渡井 明帆の隠し撮り写真ではない。

読み違えたかと、書斎や寝室にも足を踏み入れるが、やはり目ぼしいものはなかった。

せいぜいベッド脇の引き出しから、怪しげな道具に混じってインサニティが出て来た程度だ。

木崎はデスクトップのパソコンを前にして、大きく息を吐き出した。

「これを調べる時間はないだろ……」

ディスプレイには当たり前のようにパスワードの入力画面が表示されている。

さすがに、そこまで悠長にやっている暇はない。

仕方ないと電源を落とし、書斎の扉を閉めた。

メールの履歴やネットバンクの利用形跡などが分かれば、十分な証拠となる。

重要な物証が出ていない以上、パソコンの中身は是が非でも確認したいところ。

未だに間垣とは連絡がつかないため、別の相手に頼むしかなさそうだ。

大した収穫もないまま部屋を出ようとした木崎は、ふと足を止めリビングの一カ所に視線を寄せた。

ブックラック。

渡井の写真が出て来たことにうんざりして、すべての本を開かずに離れてしまっていた。

木崎はもう一度だけ、並ぶ背表紙を目で追った。

スポーツ雑誌やバイク雑誌の隣には、学生時代のアルバムがある。

その隣にも数冊のアルバムがあり、チェックをしていないものが残っていた。

「ま、念のためだな」

何も出ないことを予想しながらページを手繰る。

そのときだった。

貼り付けられていなかったのだろう。

綺麗に収められた写真の中から、一枚だけが足元に滑り落ちた。

慌てて身を屈めた木崎は、そこに映る光景に目を見開いた。

大人数で撮られた集合写真だ。

飲み会の席で撮ったものらしく、背景にはどんちゃん騒ぎの痕跡が窺える。

前列の中央では、今よりも若い佐原が笑顔を見せていた。

けれど木崎の意識を攫ったのは、写真の端。

ほとんど見切れるように映っているのは、微笑一つない無表情の男。

須藤 恵であった。




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