恋する二人。
本日最後のメールを送信し終えると、光は大きく伸びをした。
時計を見れば時刻は夜の九時を回ったところで、新役員執務室に残っているのは自分と鴨原の二人きりだ。
仁志も神戸もすでに帰寮している。
光はパソコンの電源を落とすと、デスクの上を片付けながら鴨原に声をかけた。
「俺はもう上がるけど、そっちはどう?」
「あ、はい。こちらも終わりました」
「なら一緒に出ようか。隣ももう居ないみたいだし、施錠しよう」
十一月も後半になり、新役員たちは少しずつ仕事の要領を掴んで来た。
引継ぎ作業も順調で、任される業務も増えている。
以前は、夜遅くまで居残っていた現役員たちも、最近では一足先に寮へ帰ることが多かった。
身支度を整え、二人揃って執務室を出る。
碌鳴館自体はカードと暗証番号の二重ロックだが、各部屋は普通の鍵だ。
役員になる際に渡されたそれで、しっかりと戸締りをしてから、エントランスへと降りて行った。
「そう言えば、もうすぐ交流会ですね」
「今度はこっちの生徒会が鳳桜に行くんだよな。何だか緊張する」
「長谷川先輩でも緊張するんですね。鳳桜の新会長とは、仲が良かったと聞いたことがありますけど」
碌鳴学院の系列校である鳳桜学院は、こちらと同じく山中に建つ全寮制の女子高校だ。
生徒会のシステムも似ており、ちょうど今月の頭に副会長であった三葉 小鳥が生徒会長に就任したと聞いていた。
「小鳥ちゃんに会えるのは楽しみだけど、流石に女子校で二泊三日っていうのは緊張するだろ」
「先輩はいつも冷静なイメージでしたから、全然平気なのかと……」
「どうした?」
不意に言葉を途切れさせた鴨原に、光は首を傾げた。
後輩の視線を辿れば、エントランスの玄関扉の前に一人の男を見つけた。
「あ……」
ダウンライトの明りに照らされていたのは、現生徒会長である穂積だった。
すでに帰寮したものと思っていたのだが、どうやら間違いだったらしい。
それどころか、この状況から推察するに待っていたのだろう。
「遅くまで大変だな、長谷川」
光を。
ふわりと頬を緩めながら言われ、光は密かに息を止めた。
速度を上げた鼓動を気取られぬよう、無理やり平静を装って鴨原と共に彼の前まで進む。
「鴨原もあまり無理はするなよ」
「はい、ありがとうございます。穂積会長は、こんな時間までどうされたんですか」
「俺もさっき仕事を切り上げたんだ。まだ誰か残っているようなら、夕食でもどうかと思ったんだが。もう済ませたか、長谷川」
わざとのように名前を呼ばれ、光は逃げ出したくなった。
確かに穂積は「覚悟しろ」と言った。
心のままに想いを返せない光の手に口付けながら、熱情の燃える瞳で宣告した。
けれど、ここまで露骨な手段に出ると誰が思うだろうか。
返事代わりと言うように恨みがましく睨み上げれば、相手は余裕の笑みを浮かべてみせる。
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