授業を受けて、部活に励み、友人と遊ぶ。

生徒の多くが体験する三年間に代わり、彼らは膨大な量の職務に追われ昼夜問わず働く日々を過ごしている。

さらには学内での人気の高さが影響して、どこにいても必ず誰かの耳に入ってしまう。

碌鳴館にいるときはいいが、生徒の多い校舎や寮に行けば、即座に目撃情報が補佐委員や親衛隊の間で交わされるのだ。

ドラックをばら撒く時間的なゆとりはなく、目立った行動を取ればすぐに噂となる。

千影とて彼らの性格だけを判断材料にしたわけではない。

理性と感情の両面が頷いたからこそ、秘密を打ち明けると決めたのだ。

臆することなく断言すれば、「きみの負けだよ、逸見」と歌音が笑い声を零した。

「千影くん、話してもらえてとても嬉しい。僕らのことを信じてくれて、ありがとう」
「そんなっ……それは俺のセリフです!」

千影は自分の都合で嘘をつき、自分の都合で真実を話した。

身勝手な振る舞いに付き合わされた彼らは、被害者と言える。

受け入れてもらえただけで奇跡だというのに、その上お礼までもらっては堪らない。

千影は深く腰を折り、頭を下げた。

「ずっと嘘をついていて、申し訳ありませんでした」

暫時、静寂が訪れる。

けれどそれは、千影を拒むものではなく包み込む静けさだった。

「お前にとって、真実を明かすに足る存在なんだな」

沈黙を終わらせたのは、凛とした低音。

顔を上げれば穂積と視線が交わり、今日はまだ一度も目が合っていなかったと思い至る。

黒曜石の双眸にあるのは、昨日見た恋情とは別の色だ。

「綾瀬、歌音、逸見、仁志――そして俺は、信頼を寄せられているんだな」

美しい面は無表情のまま。

内心を推し量る術はなく、彼が千影の告白に何を感じたかまるで読めない。

秘密を語る決心がついたのは、穂積が望んだからだ。

誰よりも穂積に知って欲しくて、千影は今この場に立っている。

だから、怖い。

穂積に拒まれることを何より恐れながらも、千影は漆黒の眼から逃げなかった。

拳をぎゅっと握り締め、背筋を伸ばしてしっかりと首肯する。

「はい。踏み出す勇気をくれたのは――会長です」

信じている。

他の誰よりも、穂積 真昼を信じている。

言葉に出来ない想いを込めた。

引き結ばれていた穂積の唇が緩み、脱力したように呼気が漏れる。

変化のなかった相貌に広がったのは、困ったようにも喜んでいるようにも見える苦笑。

男は静かに席を立ち、虚を衝かれて固まる千影の前に立つ。

ぎこちなく見上げた先で待っていたのは、千影の恐怖心を吹き飛ばすほど優しい笑顔だった。

「なら、俺たちはそれに応えよう」

千影を認め受容する一言が、胸を貫く。

身体の奥深いところから湧き上がる歓喜に、吐息が震えた。

この人たちに話せてよかった。

心臓が痛むほど実感したのは、差し出された穂積の手を握り返した瞬間のこと。




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