告白。




すべてを話し終えると、光は緊張の面持ちで室内を見回した。

碌鳴館の現役員執務室には、穂積を始めとするいつもの面々が勢揃いをしていた。

皆、応接用のテーブルセットについており、真剣な表情をしている。

一人座ることなく立っていた光は、不安で加速した鼓動を抱えながら、じっと最初の声を待っていた。

自らの事情を打ち明ける。

そう決心をして、仁志に現役員たちを招集するよう頼んだのは光自身だ。

これまでずっと、光は調査員でしかなかった。

自分の存在意義を守るために、秘密の保持は至極当然。

何度となく行った潜入調査の中で、素性を明かしたいと思ったことは一度としてない。

「調査員」という自意識に縛られた心は、碌鳴学院で過ごす日々によって新たな可能性を得たけれど、最後の一線は崩せないままだった。

例えこの先、他の自分をいくつ見つけることになろうとも、今はまだ「調査員」であると自認する気持ちがもっとも強くあるからだ。

けれど、穂積に正体を掴まれ秘密の開示を迫られたとき、もうこれ以上信頼する人間に嘘をつきたくないと思った。

綾瀬、歌音、逸見、そして誰よりも穂積に対して、偽りの自分だけで通したくはないと思ったのだ。

だからこそ、千影に辿りついた穂積だけでなく、現役員全員に打ち明けた。

麻薬事件を調べる探偵事務所の一員であること、碌鳴学院にはインサニティの調査のためやって来たこと、「長谷川 光」は偽名であり本当の名前は千影ということ。

何もかもを、告白した。

唯一、光の秘密を知っている仁志も、固い表情で他の面々の反応を窺っている。

「穂積はいつから知っていたの?」

口火を切った綾瀬の一言は、意外にも別の人間に向けられたものだった。

そこに批難の色はなく、平時と変わらない様子で穂積に答えを促す。

「昨日のお披露目会で叫んだの、長谷川くん……千影くんの名前じゃない。前から知っていたんでしょう」

綾瀬の口から出た自分の本名にドキリとする。

本当に彼らに真実を明かしたのだと、今更ながらに実感した。

「穂積?」
「……いや、俺も全部を知っていたわけじゃない。偶然、夏季休暇のときに「千影」としてのこいつに会っただけだ」
「夏季休暇のときって、確か穂積くんたちで城下町の調査をしていたんだよね」
「あぁ、そこでインサニティについて調べる「千影」と知り合った」

歌音の確認するような問いかけに、穂積は淡々と返す。

落ち着き払った声からは、綾瀬と同じく千影を糾弾する意思は感じられない。

だが、冷やかとも言い換え可能な口ぶりが、神経に引っ掛かった。

「長谷川と千影、別人と思って交流を持っていたのか。それほどこの姿と素顔とでは、印象が異なりますか?」
「そうだな。俺と会っていたときは私服だったし、声も少し低めていた。だが、何よりも俺が別人と思い込んでいたのが大きいだろう」

逸見の疑問に応じる横顔は、感情の欠片も見えぬ無表情だ。

何か穂積の気に障ることでもしただろうか。

尋ねたいと思うけれど、他の役員が気にする素振りもなくて、口に出すことは出来なかった。

「キミはどうして、今になって秘密を話してくれる気になったの? 千影くん」

綾瀬の率直な疑問に、千影は穂積に向けていた視線を彼の方へと移した。




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