デスゲーム。




ファンに追い回される芸能人とは、きっとこんな気分なのだろう。

懸命に足を動かしながら、現実逃避がてら考えてみる。

自分の背後から聞こえる凄まじい怒号。

芸能人と己との差は、追いかけてくる人間が抱くこちらへの感情だろう。

「待ちやがれ根暗っ!!」
「死ねヲタクっ!逃げてんじゃねぇよっ」

良家の子息ばかりが集まった碌鳴と言えど、罵る言葉はそこいらの若者と変わりない。

チラリと後ろに視線を流せば、大よそこんな危険なゲームに参加しないであろう少年たちの姿も混じっていて驚いた。

皆整った顔を怒りや憎悪で醜く変貌させている。

友人の追及から逃れるため、思わず一人校舎の外へと出た光は、急激に増加した敵の群れに後悔した。

本気で追求を開始した仁志と、どちらがマシと一概には言えないものの、倒せども倒せどもキリのない生徒の波に堪らず逃走を開始した時点で、天秤は大きく仁志側へと傾くことになった。

光の姿を見つけるや、追跡の暴徒に加わる生徒は多く、いつの間にやら壮絶な鬼ごっこが出来上がっていた。

すでに少年は気付いていた。

まだ迫り来る生徒たちを大地に沈めていたころ、ペイント弾で心臓を打ちぬき〔死亡〕させたと言うに、構わずこちらに攻撃を仕掛けてくる相手が何人もいたのだ。

おまけに、彼らはモデルガンを本来の用途では使用せず、鈍器のように振り回して来るのだからいよいよおかしい。

自分が学院中の反感を買っていると自覚していたつもりだったが、甘かった。

仁志と言う防御壁がなくなったことで、一応はしていた遠慮がなくなったらしく、生徒たちは本当の意味で光を死亡させようとしていた。

「ぜんっぶバ会長のせいだっ!」

いつまでも続く逃走劇。

どうにもなくなり叫べば、後ろからまるで返事のように罵声の嵐。

「ヲタクが穂積様を呼ぶなっ!」
「クズが調子乗ってんじゃねぇよっ!仁志様に近づいてっ」
「仁志様に寄生すんな虫ケラがっ!」
「殺すぞカス野郎っ!!」

あぁ、皆様口が悪くていらっしゃいますのね。

暴徒の群れから投げられた飛来物を、首を竦めてよける。

転がっていったそれを一瞬だけ確認したが、モデルガンだ。

あんなものが直撃でもすればただでは済まない。

仁志の本気も怖いが、彼らの『本気』も恐ろしいではないか。

自分が逃げるから追いかけてくる。

自分が逃げるから益々彼らの怒りは煽られる。

簡単な式だ。

「だからって止まったら、俺の人生終わりじゃんっ!!」

これもまた、簡単な答えだった。

正確な時間は分からないが、結構な長さを走り続けている。

一般人よりはあるはずの体力も、限界が近い。

どうやら追走者たちは、光に対する激情でリミッターが外れているらしく、疲れを意識していないようだ。

きっと脳内麻薬が凄いことになっているはず。

今ここに間垣がいれば、どうして目に見える麻薬しか取り締まらないのかと抗議している。




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