強引な展開に乾いた笑いが漏れる。

ずっと典拠作品に沿っていたのに、結末はオリジナルなのだ。

観ていた生徒たちは、さぞ戸惑ったことだろう。

だが、その無茶な辻褄合わせが劇の崩壊を食い止めた。

咄嗟の機転で対処して見せた綾瀬に、千影は驚嘆せずにはいられなかった。

「結構、好評だったみたいだぞ。典拠を完全に無視しているが、ラブコメみたいだったと」
「……明日、みんなに謝りましょう。全力で」

自分たちが役を放り出すまで、舞台は粛々とした雰囲気で進んでいたのだ。

ラブコメに変わってしまったと聞いて、申し訳なさが一層募る。

重い吐息を逃がす少年の前に、穂積は紙袋を差し出した。

「ついでに、お前の変装道具も持って来させた。控室に置いたままだと思ってな」
「わざわざ、すみません。ありが――」
「俺がなぜ、仁志に連絡したと思う」

千影に最後まで言わせず、穂積は問うた。

その硬質な響きに、ようやく気付く。

黒曜石の双眸は、秘密の開示を望んだときと少しも変わっていない。

真っ直ぐな視線を受けて、千影はこれが別の話題ではないのだと思い至った。

「あいつはお前の秘密を知っていると思ったからだ」

穂積の手が静かに伸ばされ、千影の強張った頬をそっと包み込む。

冷えた肌に辛うじてぬくもりが伝わる程度の触れ方は、まるで怯えているようだ。

拒まれることを怖れて踏み込もうにも躊躇われる、そんな緊張感すら感じられる。

千影の真実を強く求める眼差しと、千影の拒絶に恐怖する掌。

「仁志には言えて、俺には言えないのか」

続けられた言葉は傲慢ですらあるのに、奏でた音色は苦痛に喘ぐようにも聞こえる。

相反する感情に晒されて、千影は戸惑わずにはいられなかった。

穂積にすべてを打ち明けるには、木崎の許可が必要不可欠。

今の千影に言えることは何もない。

首を横に振るべきだ、話せることは何もないと正直に伝えるべきだ。

分かっているのに動けないのは、穂積を傷つけてしまう気がするから。

穂積を悲しませたくない。

初めて目の当たりにした彼の弱さの片鱗に、千影の口は自然と開いていた。

「あの、何でこんなに距離が近いんですか?」
「……なんだ、いきなり」
「いきなりは会長です。何でこんなに近いんですか、それと、あの、手も」

指摘したのは頬を包むものではなく、いつの間にか腰に回っていた方の手だ。

抱き締めるような体勢だったと意識すれば、今更ながらに気恥ずかしさが込み上げる。

顔に熱が昇るのが分かったのは、千影本人だけではない。

訝しげだった男の表情が、俄かに艶を帯びる。




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