◇
「え!?仁志様っ!?」
「まだゲーム中じゃ……」
「スクリーンで見ましたぁっ!仁志様素敵ですぅっ!!」
舞台からもっとも離れた位置にある出入り口から入れば、周辺に座る生徒から戸惑いと賞賛が巻き起こる。
今回は光潰しと言うこともあって例外だが、基本的に不参加の生徒の多くは可愛らしい少年ばかり。
まとわり付く粘着質な様々な欲の目線は慣れているので、仁志は意に介さずにただ講堂の一番奥に見えるドアへと急いだ。
一枚の扉を開ければ、更にもう一枚。
ノブ横にあるスロットに、生徒会役員の金色のカードを通しロックを解除した。
「会長っ!!」
「え、仁志くんっ!?」
弾かれたように反応したのは、綾瀬だ。
大講堂内にはステージから客席の下にある地下通路を通って、更にエレベーターで到達することの出来る生徒会専用の控え室があった。
座り心地のよい真っ白なソファに優雅に腰を据えた副会長は、どうして仁志がここに居るのか分からず困惑している。
対面に置かれた巨大なモニターには、校舎内に仕掛けられたカメラの映像が、数十秒ごとにカメラを切り替えながら画面を分割して映し出されており、歌音が一人がけの椅子に座って監視していた。
「綾瀬先輩、会長はっ!?」
「ちょ、落ち着いて。どうしたの?」
「調べてほしいことがあるんですっ。アイツ、俺、光に……」
思い出された出来事の衝撃と、溢れんばかりの疑問符ですっかり混乱しているようだ。
穂積はどこだと、室内を見回している。
「穂積は今、別の用で……」
「俺がどうした?」
絶妙なタイミングで現れた男は、仁志とは反対の扉から姿を見せた。
居るはずのない相手に眉を寄せている。
「仁志、お前どうしてここにいる?長谷川についたんじゃなかったのか?」
「それどころじゃねぇんだよっ!光が逃げて、それで俺、思い出したんだっ!」
掴みかからん勢いで詰め寄る不良に、穂積はますます顔つきを怪訝なものにした。
兎に角、彼を落ち着かせないことには事態の把握は難しそうだ。
しかし突然発せられた、鋭さを帯びた歌音の声によって、仁志の混乱は強制的に収束させられることになる。
「仁志くん、すぐに長谷川くんのところに戻って!」
「……え?」
「なんですぐに長谷川くんを追わなかったのっ!?」
一拍の後、室内にいる全員が歌音の言わんとする意味を理解して、息を呑んだ。
歌音はモニターを操作して画面を手動で切り替えて行く。
愕然とする面々の中で、最初に我に返ったのは穂積だった。
「長谷川はどこだっ?」
「会計方のガードは、彼の足について行けなかったみたい。さっき取り残された映像があったから」
つまり、今の光は誰の護衛もないということ。
仁志は己の軽率な行動に、顔面を蒼白にさせた。
あまりに重要で分かりきったことを失念していた自分が信じられない。
綾瀬はデスクに置いてあるパソコンに駆け寄ると、キーボードを叩き出した。
モニターだけで目的の映像を見つけるのは骨だ。
何せそちらに映るのは今回のために設置されたカメラが捉えているものだけなのだ。
生徒会が保有するすべてのカメラの映像を、本校舎を中心に漁って行く。
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