「何かあったのか?」
「もうすぐお披露目会だろ? その打ち合わせだ」

お披露目会とは新生徒会が参加する、初めての行事である。

現生徒会役員と新生徒会役員が揃って一つの演目を行い、両者の関係が良好であることを見せつけると同時に、新生徒会への代替わりを生徒たちに意識させる狙いがある。

とは言っても、実際には生徒会信奉者へのファンサービスでしかない。

学内の人気者が役員となる例年ならば、さして重要視されるものではなく、お遊びイベントといっても過言ではなかった。

だが、今年は光がいる。

どのような演目を選ぶか、慎重に行うべきだ。

生徒会就任時に仁志から受けた説明を思い出し、光はきゅっと口元を引き締めた。

「でね、あみだくじの結果、今年は『かぐや姫』になりましたー!」
「は?」
「え?」
「おお!」

現生徒会執務室に移った新役員たちを待っていたのは、現副会長の軽快なセリフだった。

光と鴨原が目を点にする横で、神戸は一人瞳を輝かせている。

「え! 俺がいない間にもう決まったんすか!?」
「お前がぐずぐずしているからだろう。隣の部屋はそんなに離れていたのか」

大窓の前に置かれた会長席に着く男は、その秀麗な面を不機嫌に顰めていた。

いつものように仁志を挑発するが、凛と響く低音には微かな苛立ちが滲んでいる。

よほど不本意な結果なのだと思って、光は小首を傾げた。

「あの、どうしてあみだクジにしたんですか。他にも色々とあったと思うんですけど」

当然の疑問を口にすれば、驚いたような視線が光に注がれた。

艶やかな黒曜石の瞳が僅かに瞠られ、次いで安堵したかのように和む。

「あまりにも演目の案が出ないから、綾瀬が過去に採用された演目をいくつか選んで、面白半分であみだにしたんだ。まさかこんなネタが放り込まれてるとはな」

幾分柔らかくなった声音に、光は彼の不機嫌は演目のためだけではないと気が付いた。

最後に穂積と言葉を交わした顔合わせの日のことが思い出され、慌てて記憶を打ち消す。

「ネタってことは、他の演目案はまったく違うものなんですか?」
「お披露目会は、英語劇をやることが多いんだ。僕たちのときは『不思議の国のアリス』の英語劇だったし、その前の世代は『ロミオとジュリエット』だったかな」
「男子校で悲恋もの……」

歌音の説明に、隣の鴨原が小さく零した。

まったくの同意見である。

「優先する仕事があるとか言って、僕に一任したのは穂積でしょう? 今さら文句を言わない」
「だからといって、数ある演目の中からこれになるとは……」

綾瀬の言葉は正論だが、選ばれた作品を思えば穂積の気持ちも分かる。

英語劇ならばまだ見栄えがしそうに思えるが、昔話や絵本のイメージが強い『かぐや姫』ではどうにも頼りない。

不安が顔に出ていたのか、仁志がフォローするように口を開いた。




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