無理やり押し出されたような醜い悲鳴を上げて、三人は揃って腹を抱えてのた打ち回った。

「降参?」

上方から落とされた少年の囁きに、ただひたすら首を縦に振る。

戦意は今の一撃で完全に潰えた。

白旗宣言を確認すると、光は平然と乱れた前髪を元のように目元に乗せながら、ペイント弾で真っ赤に塗装されてしまった自分の銃を拾いに行った。

一部始終。

瞬きもせず事の次第を目撃していた仁志は、己が眼に映った出来事に絶句した。

ウエイトがないために軽くなってしまう攻撃を、スピードや遠心力、重力で補う戦闘スタイル。

筋力だけでは限界のあるダメージ量を、板に付いた技術で格段にグレードアップさせている。

相当の場数を踏まなければ、あれほど綺麗に敵を倒すことなど出来まい。

それこそ、格闘ゲームの中でチャンピオンベルトを締めているような人間には、無理な芸当だ。

けれど、何処から見ても根暗以外の何者でもない光の、予想外な強さに驚いたわけではなかった。

脳の奥深い場所が、チカチカと明滅を繰り返す。

この戦い方を、仁志はどこかで見たことがある。

どこだ。

あと少しのところで手が届くのに、まだはっきりとは掴めない。

禍々しい色に汚れたモデルガンを、倒れた生徒のブレザーで綺麗に拭っていた光は、ぐいっと肩を引かれ、驚きの表情で背後を見やった。

「なに、に……仁志?」
「光、お前やっぱ前にどこかで会ったことあんだろ?」
「…どうしたんだよ、いきなり」
「答えろ」

いきなりの台詞に、頬が引きつりそうになる。

動揺で震えてしまいそうな声を、意識的に正した。

「前も言ったけど、遺伝子レベルでないってば」
「嘘つくな」
「嘘なんて……」
「お前の戦い方に、見覚えがあるんだよ」

肩にかかった仁志の手に、力がこもる。

恐らくは無意識なのだろうけれど、光は逃げ道を塞がれた気分だ。

自分が彼を覚えていたように、仁志もまた自分に気付く可能性は十分にある。

正反対な姿を繕ったところで、初日に驚異的な勘で指摘してきたくらいなのだから、長く付き合えば付き合うだけ、危険度は上昇すると分かっていた。

勿論、こちらの予想を軽々と上回る早さだったが。

「どこで俺と会った」
「仁志の思い違いだよ。俺と仁志は、学院に来て始めて会ったんだ」
「……」

焦燥を胸中だけに留め、眼鏡に隠された面には戸惑いを貼り付ける。

だが、仁志の鋭い双眸は一向に追及の手を緩めはしない。

こちらの真意を探るように、輝きを強めるだけだ。

仁志は、本気だ。

茶化して誤魔化そうだとか、笑いに持って行こうだとか。

廻らせていた浅知恵が通用しないレベルなのだと、悟ってしまった。

どうしよう。

どうすれば。

バレるわけにはいかない。

売人候補である仁志には。

不自然に訪れた沈黙。

互いに睨み付けるように見つめ合ったまま、流れた時間は短いはず。

静寂は第三者によって破られた。

『火軍、本校舎三階に到達っ!水軍、非常に危険な状態ですっ!!』

流れた校内放送に、仁志の注意が一瞬それた。

このチャンスを逃すはずがない。

光は仁志の拘束を振り切るや、脱兎の如く逃げ出した。




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