テーブルを囲んで。
就任式はぎこちない空気のままに終了した。
仁志の所信表明や穂積の挨拶ですら、光の次期副会長就任によって生み出された動揺を払拭することは出来ず、生徒たちは終始落ち着かない様子でいた。
それは生徒会入りを打診されたときから、分かっていたことだった。
二学期に入り徐々に立ち位置が変化していたとはいえ、光は碌鳴学院の鼻つまみ者。
絶大な権力を持つエリート集団に加わるとなれば、生徒たちが反発するのは当然である。
むしろ、僅かに数人でも認めてくれる人がいたことに驚かされた。
元から好意的だった渡井や野家だけでなく、碌鳴祭から交流を持つようになったクラスメイトが応援してくれたのは、嬉しい誤算だ。
何しろ光は、早急に次期副会長として認められる必要があるのだから。
「そうそう。新しい副会長方の発足が、一番の問題なんだよね」
「今はまだ綾瀬先輩の副会長方があるからいいけど、来月までにはどうにかしねぇとヤバイな」
綾瀬の言葉に同意をすると、仁志は斜め向かいの歌音へ目を向けた。
「補佐委員会はどんな感じか、逸見先輩から聞いていませんか?」
「みんなある程度、予想はしていたみたいだからね。一般生徒ほど動揺はしていないってことだよ」
「予想って……俺が生徒会に入ることが、噂にでもなっていたんですか?」
光自身、心を決めたのはつい最近の話だ。
文化祭や須藤の件で忙しなくしていたとはいえ、噂が立っていたとは知らなかった。
目を瞬かせる光に、隣の綾瀬が笑いを堪えながら口を開く。
「まぁ、あれだけ穂積がアピールしていたらね。選挙シーズンだって気付けば、大抵の子は分かるよ」
「体育祭に続いて文化祭だもんな。お前、気付いてなかったのかよ」
仁志の呆れたような声に、光はぐっと言葉に詰まった。
十月の体育祭から、やけに人目のある場所で穂積が接触して来たのは、このためだったのか。
生徒たちからの反感が和らいだのをいいことに、何かと構って来る彼に違和感はあった。
だがそれも、テニスの特別試合が光の実力を知らしめるためと知り、すべては転校生の立場を向上させるパフォーマンスだと思っていた。
まさか光の生徒会入りを匂わせる狙いがあったとは。
もし文化祭のあの日、穂積の要請を断っていたらどうするつもりだったのだろう。
穂積に優遇されたという事実が残るだけで、光を取り巻く状況は再び悪化していたかもしれない。
何も言わずしれっと下準備をしていた男を、光は咎めるように見つめた。
だが、思いもがけず不機嫌な顔をする生徒会長様に、小首を傾げる。
光の反応に、同席する他の役員たちも穂積へと視線を向けた。
「どうかしたんですか、会長」
「……なぜ、鍋なんだ」
「は?」
問いかけに返されたのは、簡潔なセリフ。
意図するところが読めず、思わず間抜けな一音が口をつく。
応じたのは得意げな笑顔を見せる綾瀬であった。
「生徒会恒例、次期役員就任おめでとう晩餐会だからに決まってるじゃない!」
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