受け入れたばかりとはいえ、穂積への思慕の念が簡単に失われる類のものでないことは分かる。

時間が経つにつれて、想いは深まる一方だろうと予想も出来る。

強く大きくなっていく心を、果たしていつまで抱えていられるだろうか。

口を閉ざしたままでいられるだろうか。

出口のない恋情は、仁志の言う通りやがてどろどろに腐ってしまうかもしれない。

照れくさそうにはにかんだ綾瀬、優しげに微笑んだ歌音、真剣に語った仁志。

彼らが抱いたものと同じはずの熱が、醜く朽ちて行く様を想像してゾッとした。

そうして光は、示された具体的な行動に考えを巡らせた。

もし自分の気持ちを、穂積に告げたら。

もし自分が想うように、穂積が想いを返してくれたら。

だが、その仮定はあっけなく崩れる。

「無理だ」
「言う前から無理とか言ってんじゃねぇよ。俺の予想じゃ会長も――」
「俺と会長は生きる世界が違う」

仁志の言葉を遮って、光はきっぱりと言い切った。

いつか穂積本人にもぶつけたセリフは、揺らぐことのない絶対の真実だ。

世界的な大企業の後継者である穂積と、調査員として社会の裏側に潜る千影。

日の下を歩く男に対して、少年は影の中に生きている。

共に同じ道を歩むことなど、どうして出来るだろうか。

万が一にも想いが通じたとして、二人の関係は成立しない。

「HOZUMIグループ後継者と調査員じゃ、立っている場所が違うんだ。告白なんて考える意味もないだろ」

変化したのは光の気持ちだけで、目の前にある現実はあのときのまま。

どれほど望んだところで、千影が穂積の隣に行くことは不可能なのだ。

硬直した友人に曖昧な笑みを浮かべると、光は話を切り上げるように立ち上がった。

キッチンに入り、二人分のマグを用意する。

穂積の傍に在りたいと思う気持ちは、小鳥に語った日から変わらない。

叶わらぬ願いと諦めながら、どうしても消せずにいる。

意識してしまえば息苦しさに喘ぐと知っている少年は、切ない痛みを放つ感情を、再び胸の奥深い場所へ沈めようとした。

「隔たりをなくせばいいだけだろ」

リビングから仁志の声が届く。

一瞬、何を言われたのか分からなくて、光は動きを止めた。

にゅっと対面式のキッチンを覗き込んだ男は、至極真面目な様子で言った。

「調査員、辞められねぇのか?」
「…………は?」

思いがけない提案に、目が点になる。




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