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「やっと自覚したのか! お前らの関係って進展してんのかしてねぇのか、よく分からねぇんだよ! ここまでの道のり長すぎだろ!」
「に、仁志、落ち着け」
「で、いつ言うんだ? もう十一月だからな、バ会長たちの卒業まで時間ねぇぞ!」
張り切った調子で言われたその言葉に、光は虚を突かれたように目を瞬いた。
「は? 言うって、何をだよ」
「何って、いつ告るんだって話だろ」
当然とばかりに返されて唖然となる。
仁志の言う告白とは、すなわち「愛の告白」のことだろう。
穂積が卒業をしてしまう前に、想いを告げろと促しているのだ。
「するわけないだろ」
「はぁ!?」
頓狂な声に、思わず耳を塞ぐ。
抗議のつもりでジロリと睨みつけたものの、仁志は光のセリフに意識を持って行かれたのか気付きもしない。
その驚きように、光は嘆息を吐き出した。
「……好きだって認めたからって、告白しなきゃいけないわけじゃないだろ」
例え相手に好意を抱いたとしても、それをどうして伝えなければならないのか。
胸に秘めたままでいることも出来るだろう。
なぜ仁志が、告白することを前提に話を展開させようとしたのか理解できない。
「告白する」という選択肢を、光は思い付きもしなかったのに。
「確かに俺は会長が好きだけど、別に想いを知ってもらいたいとは思わない」
「それじゃ、向こうから言って来るまで関係は変わらねぇぞ」
「……」
「おい、お前まさか、付き合いたいとか両想いになりたいとかって思ってないのか?」
窺うように問われ、光は沈黙した。
図星だ。
告白云々の前に、そもそも光は恋の成就を望んですらいなかった。
仁志はカッと目を剥くと、凄まじい迫力でもって怒鳴った。
「お前、小学生の恋愛ごっこじゃねぇんだぞ!」
「いや、そう言われても……初めてのことだし」
「だからって報われたいとも思わねぇってどうなんだよ。てめぇやる気あんのか!?」
本気の説教にぎょっとする。
なぜこれほどムキになっているのか、まるで分からない。
第三者の熱意に当事者が置いてけぼりを食らうなど、そうそうあることではない。
狼狽える少年に、男はビシッと人差し指を突きつけた。
「いいか、それを恋だって認めたんなら真剣に考えろ。ただ胸ん中に抱えているだけじゃ、いつまでたっても踏ん切りつかねぇでもやもやするだけだ。その感情を腐らせんな!」
光はようやく仁志の意図に気が付いた。
彼は知っているのだ、想いを秘めたままでいる苦しみを。
本音を抑えて恋する相手と接する痛みを。
光が知るずっと前から、綾瀬 滸に恋をしていた仁志は。
理解した途端、浴びせられた怒声の意味が思考の中心へと吸い込まれた。
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