「穂積って恋をすると露骨なんだね」
「は?」
「好きな子に触れたくて仕方なくて、我慢できなかったんだから露骨でしょう」

綾瀬の発言に、穂積は顔を顰めた。

話がおかしな方向に行っている。

先ほどの己は、そんな可愛らしい気持ちでいたわけではない。

恋心の安定を望んだ脆弱な手を、制御し切れぬ恋情がためと言われて、どうして肯定できようか。

「どうしてそうなる」

不機嫌に返すと、綾瀬は緩く口端を持ち上げた。

奥行きのある紅茶色の瞳が、きらりと輝く。

「だって、触りたかったんでしょう?」

答えに窮したのは、光に触れたいという願いを確かに持っていたせい。

例え今、想い人へ伸ばす手にどんな思惑が乗っていようとも、恋心を受け入れたあのときから日ごとに増して行く欲求は疑いようもなく存在している。

千影との再会がなかったとしても、穂積は光の体温に触れたいと思っていたはずだ。

沈黙した男に、綾瀬はさらに疑問符を重る。

「我慢できなかったんでしょう?」

その問いにも、穂積の唇は開かない。

光へとった己の行為を意識したのは、すべてが終わった後。

鳥の巣頭を撫でたことも、頬を包み込んだことも、ごく自然に行われた無意識の行動だった。

「我慢する」という選択肢など、思いつきもしなかったのである。

「長谷川くんが好きなんでしょう?」
「あぁ」

沈黙の終焉だった。

どれほど千影に意識が引き寄せられたとしても、この問いに返す言葉は肯定以外ありえない。

容姿から受け取る印象に反した無茶な言動、あらゆる困難に傷つきながらも立ち向かう意思。

それらの裏に潜む哀れなほどの自立願望を目の当たりにして、胸が締め付けられるほどの愛おしさと切なさを覚えた。

己だけが光を護り、己だけが光に頼られたいと、傲慢な望みが止めどなく溢れ出し堪えようもなかった。

あの華奢な姿を視界に見つけるだけで加速する鼓動の理由は、光に恋い焦がれているからに他ならない。

決然とした口調で言い切れば、綾瀬の笑みが深まった。

「ほら、やっぱり露骨。一つ一つ紐解いて行けばすごく単純だよ、キミのやっていることってさ」

からかうような表情を向けられても、穂積はもう否定しなかった。

握りしめていた拳を開き、そこに彼の人の名残を探すが如く目を落とす。

己らしからぬことをしたと、小さな苦笑が漏れた。

惑い揺れようとも、変わらぬものは確実に在る。

「そうだな、単純なことだった」
「難しく考えるからいけないんだよ。穂積って変なところで真面目過ぎるよね」

穂積の動きを見ていた幼馴染は諭すように言うと、くすりと喉を震わせた。




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